第39呪 ハカイシンは呪われている💀
ユウマ達がダンジョンの中に入ると、湿度も温度も高い不快感MAXな空気がムワッと肌にまとわりついてきた。
辺り一面に生い茂っている背の高い木々。
木々の隙間から見える太陽と青い空。
どういう生態系が構築されているのか検討もつかないが、赤、青、緑と原色で彩られた鳥が木にとまっている。
ここは熱帯雨林型のダンジョンだ。
「こういう、自然がいっぱいです! みたいなフィールドはなんとなく壊しづらいんだよなぁ。物理的にというより、心情的に? 森林破壊ダメ絶対!! みたいな教育を受けてきたからかな……」
ユウマが額に滲む汗を、腕に巻かれた包帯で拭っていると、見かねたミサキがハンドタオルを差し出した。
「でもここはダンジョンをブレイクしたらそのまま消えていっちゃう、持続不可能な大自然よ」
ユウマは「ありがと」とハンドタオルを受け取って、額に押し当てる。
肌を湿らせていた水分が柔らかなタオル地に吸い込まれていった。
「いやぁ、そうなんだけどさ。頭で理解できるってことと、気持ちの問題って別じゃん?」
「それでも、いつものように道を作ってもらえると助かるのだけど。この暑さ、あまり長居はしたくない場所だわ」
「その気持ちも、よく分かる」
「じゃあ、お願いね。ボスは3時の方向よ」
「あいさー。……あ、すみません。そこ、スペース開けて貰ってもいいですか? 危ないので、もう少し離れて頂けると。はい、そこなら大丈夫です」
ユウマは3時の方向に立っていたブレイカーに声を掛けてスペースを確保すると、いつものようにグローブを構えた。
「それじゃ、いくぜナイドラ! ウルティメットパーーーーンチ!!」
〔 結局、
ナイドラのぼやきをゴン無視して、ユウマは邪龍のグローブ装着した右の拳を前方に突き出した。
ドオオォォォンという、いつもの爆音と巻き上がる粉塵。
視界が晴れると、それまで真正面に生えていた木々は影も形も無くなっており、やや外側に位置していた木々も拳圧で外側に傾いて――もとい、幹からポッキリと折れていた。
「んな…………」
先ほど場所を空けてくれたブレイカーが、自らの目前に広がっている超常現象に固まっていた。
「お、おい、Y氏! こういう派手なことをやるときは、先に声を掛けてくれねぇと。ほかの奴らにちゃんと説明しとかねぇから、ほら……みんなドン引きしちまってるぞ」
セイジの言うとおり、一緒にダンジョンに突入した仲間であるはずのブレイカー達が、ユウマから明らかに距離を取っていた。
ユウマを見る目も仲間を見るソレではなく、オバケや怪獣をみているかのようだ。
彼らはコソコソと情報を交換していた。
もちろん、彼らはみんな例の噂を耳にしていた。
中学生のコスプレイヤーのような格好をしたスゴ腕ブレイカーの噂を。
「やっぱ、あいつが例の?」
「あの格好、ほかに考えらんねぇだろ」
「本当にダンジョン破壊してる音だったんだな……」
「結局、アイツは何者なんだ?」
「さっき、セイジさんが名前呼んでたよな?」
「アイシだったか?」
「カイシンだろ?」
「アカイシじゃねぇか?」
アカイシ、という一番日本人らしい名前で仮決定が降されようとしたその時、ひとりのブレイカーがボソリと言った。
「はかいしん」
その場に居合わせた全てのブレイカーが「それだ!」と納得したことは言うまでもない。
熱帯雨林型ダンジョンに拓いた道を、20名のブレイカーが歩いていく。
時折、雑魚モンスターが現れるものの、ユウマが手を出す前に周りのブレイカー達が「俺に任せて下さい! 破壊神!!」と割り込んでは
「ちょっと前までは、俺がゴミ掃除係だったんだけどな……。なんだか嬉しいようなムズ痒いような」
「そう思うんだったら、さっさとボスを始末しちゃいましょ。みんなが一番喜んでくれるわ」
「それな。ところでさ……なんでみんな、俺のことをハカイシンって呼ぶんだろう?」
「さぁ? やっぱりダンジョンを豪快に破壊してるからじゃないかしら」
〔 破壊神。異名が破壊神。最高だな 〕
「なんか……ナイドラは気に入ったみたい」
〔 蛇の分際で破壊神とは……。出世したものよのぉ 〕
〔 我は邪龍である! 蛇ごときと一緒にするな!! 〕
〔
「女神の方は不服みたいよ」
「うるさいからケンカはヨソでやって欲しいよな」
「全くだわ」
呪いの宿主たちからのクレームをよそに、オープンチャンネルで煽り合いを続ける邪龍と女神であった。
少し進んだところに、ボスモンスターは佇んでいた。
それは大きなラフレシアのような植物タイプの大型モンスターだったが、ユウマの
ボスモンスターを倒したことで、ブレイカー達はにわかにざわめきだす。
「な、なんだ。楽勝じゃねぇか」
「あ、ああ。クイックラッシャーはこんなんに負けたのかよ」
そんな仲間達の軽口をセイジが大声で笑い飛ばした。
「はっはっはっは。だったら良かったんだけどな。たぶんまだ続くぞ」
「どういうことだよ?」
「入る前に言っただろ?
ほかのダンジョンまで飲み込まれているんだよ。
流石にこのレベルのダンジョンならうちのブレイカーチームだって楽勝だ。
つまり、ここは飲み込まれたダンジョンで本命はもっと先ってことさ」
セイジの言葉を裏付けるように、さっきまで熱帯雨林の姿をしていたダンジョンが海辺のビーチへと様変わりしていた。
――――――――――――――――――――
💀連続ダンジョン
肥大化するダンジョンによって取り込まれたダンジョンは、肥大化するダンジョンの一部として侵入者の前に立ちはだかります。
取り込まれたダンジョン全てをブレイクして、初めて肥大化するダンジョンのコアとなっているダンジョンに入ることが可能です。
今回の“肥大化するダンジョン”には実に大小13ものダンジョンが取り込まれています。
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