第30呪 私たちの関係は呪われている💀
「そんな怪しげなものを患者に飲ませるなど……担当医として許可できない!」
後から入ってきた医師が、
「そいぎん、おまえはこん人ば助けらるっとか!?」
(それじゃあ、おまえはこの人を助けられるのか!?)
「な、なんだと?」
ユウマが荒々しく医師へと突っかかる。
方言ではあるが、それほど難しいものではなかったので医師にもユウマが言いたいことはなんとなく伝わっているようだ。
「だけん、たすけらるっとかって聞いとーとばい」
(だから、助けられるのかって聞いてるんだよ)
(わぁ、ユウマが怒ってる)
ユウマの方言を聞くのも久しぶりで、ミサキはちょっとワクワクしてしまった。
だがこのまま、ふたりの口論を見守っている時間はない。
母の命を救うには1秒だって惜しい。
「先生。それは母が好きだったジュースなんです」
「は? ジュース? この虹色に光る気持ちの悪い液体が?」
「はい。ジュースなんです」
「いや、しかし――」
「しかしもなにもありません。ジュースと言ったらジュースなんです。お疑いになられるのでしたら、先生にもおすそ分けしましょうか?」
ミサキは有無を言わせぬ笑顔で、医師にジュースだとゴリ押しする。
「い、いや、私は……」
医師が一歩うしろに後ずさる。
さすがに正体不明の虹色の液体を、自分で飲む勇気は無いようだ。
「ママはもう厳しいんでしょう? 死ぬ前に一口だけ。ママが好きだったジュースを飲ませてあげたいんです。それくらい、良いでしょう?」
おかしな格好をした男と、ガタイのいいスーツの男にニラまれ、中学生のように幼い容姿をしたミサキに懇願され、ついに医師は折れた。
「わ、私はちょっと席を外します。その間に最後の別れを済ませておいてください。……私は何も見なかったし、聞かなかった。そういうことでいいですね?」
「はい! ありがとうございます。先生!」
医師と看護師が病室を出て行った。
ミサキは虹色に光るエリクサーを、ゆっくりと母の口に近づける。
ポトリ、と一滴。
ミサキの母の口内に落ちたエリクサーが吸収されていく。
さらに、一滴、二滴。
エリクサーが舌を伝ってノドへと向かう。
コクリ、とノドが鳴った。
これまで経口摂取が出来ずに点滴で栄養を補給していた母のノドが動いたのだ。
ミサキの目の前で、いままさに奇跡が起ころうとしていた。
さらにエリクサーを口元に流し込む。
コクリ、コクリ、と確かにノドが鳴った。
エリクサーが全て母の口に消えたとき、母は静かに目を開けた。
「……ん。……ミサちゃん?」
「うん! ママ! 私だよ、ミサキだよ!!」
「あらあら、なんで泣いてるのよ。……そういえば、ここはどこかしら? 私の部屋じゃないみたいだけど……」
「ふふっ。ここはね、病院。ママはちょっと疲れて倒れちゃったみたい。でも、もう大丈夫だよ」
ミサキは両目からこぼれる涙をぬぐいながら、母に笑いかける。
「言われてみれば……部屋で倒れたような。うーん、思い出せないわ。ところで、お隣にいる
母はミサキの隣に立っていたユウマを見て言った。
セイジは気を利かせてくれたのか、いつのまにやら病室から姿を消していた。
「この人はユウマ。高坂ユウマさんよ。私の……いちばん大切な人」
「たいせ……ッ!? あっ! あのっ!! 俺、あっ、ぼくっ、高坂ユウマと言います。ミサキさんには、えっと、いつも大変お世話になっておりまして、その……」
「うふふふふふ。ご丁寧にありがとうございます。ミサキの母です。ふつつかな娘ですが、どうぞ末永くよろしくお願いします」
頭を下げる母。
動揺するユウマ。
ユウマを見て爆笑しているミサキ。
病室の外からその様子を見て、静かに涙を流すセイジ。
いつも静かだった病室が、こんなに賑やかになる日がくると誰が予想できただろうか。
ミサキは大好きな人たちに囲まれて、ただ幸せを噛みしめていた。
💀 💀 💀 💀
「おい、聞いたか?」
「なんのことだ?」
「1週間で100のダンジョンをブレイクした奴が出たってよ」
「え? 俺は10日で200って聞いたぜ」
「マジかよ……。バケモンじゃねぇか」
「しかも、そいつがダンジョンに入ると、ものすごい爆発音が漏れてくるらしいぜ」
「は!? ダンジョンの外まで聞こえるってのか? そのバケモンはダンジョンに大砲でも持ち込んでんのかよ……」
「もうひとつ、すげぇ情報があるんだけど……知りたいか?」
「お、おう! なんだよ?」
「じゃあ、情報量だ。ビールを一杯オゴれ」
「おい、ニーチャン! ここにビールちょうだい! 大至急ね! ……これでいいか? ほら、はやく教えてくれよ」
「あせるな、あせるな。……じつは俺のダチがよぉ、そのバケモンみたいなブレイカーがダンジョンから出てくるところを見たって言うんだよ」
「なんだと!? どんな奴だ? 男か? 女か?」
「おそらく男だ。しかも恐ろしくダサい格好の」
「格好がダサい?」
「バンダナに眼帯、黒いロングコートとロングブーツにオープンフィンガーのレザーグローブ。まるで中学生のコスプレイヤーみたいな恰好だったってよ」
「なんだよ、それ。ゲームキャラが転生してきたみたいじゃねぇか。逆に怖えぇな」
「とりあえず……不用意に関わらない方が正解だろうな」
ブレイカーと思われる男たちは、騒然とした居酒屋でウワサ話に花を咲かせる。
ウワサには尾ひれが付いて、あっという間にダンジョン業界中に広まっていった。
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『攻撃力9999の呪われたグローブ💀は最強です ~中二病の邪龍とダンジョン無双~』
「山縣ミサキと女神のカチューシャ」はいかがでしたでしょうか。
少しでも面白いと思われた方、続きが気になるという方は、どうか★での評価を頂けますと幸いです。
★でも、★★でも、★★★でも、思ったままの評価でかまいません。
どうか応援のほど、よろしくお願いいたします。
以上、★クレクレアピール失礼しました。
次の三章「高坂ユウマと中二病の破壊神」で本作は最終章となります。
最後まで、どうかよろしくお願いいたします。
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