第27呪 中二病の装備に呪われている💀


 あれから4日。

 ミサキは今日も母の病室にいた。


 夕方になり、窓から入り込む風が少し肌寒くなってきた。


 キーン、コーン、カーンとチャイムの放送音があかね空に鳴り響く。

 近くに学校でもあるのだろうか、と外を見てみたがそれらしい建物は見つけられなかった。


 ミサキは窓を締めながら独りごちる。


「ユウマも薄情なやつね。一度くらい病室に顔をみせてくれたっていいのに……」


 ユウマと一緒に朝食を食べた日から、ミサキは一度もユウマと会っていない。

 病院の帰りにはAmakusaにも顔を出しているのだけど、マスターが言うには、ユウマはふたりで泥酔したあの夜以来Amakusaにも来てないそうだ。


「もしかして、私……避けられてるのかな。ねぇ、ママ、どう思う?」


 もちろん母から返事は無い。

 聞こえるのはピッ、ピッ、ピッ、という心電図モニターの音だけだ。


「……答えてよ……ママ……」


 窓ガラスに額を押し付けたミサキが、ドンッと窓を叩いた。


 その目からポロポロと涙がこぼれてくる。


 心が不安定になっている自分を客観的に見て、さらに気分が落ちていく。


 こんなとき、隣にユウマがいてくれてなら。

 せめて帰りにAmakusaで彼に会えたなら。


 そんな女々しいことを考えてしまう自分に、今度は腹が立ってきた。


「あーあ。やっぱり好きなのかしら……。あんなバカな子なのに……。なんか負けた気分だわ」


〔 ならば想いを伝えれば良かろう? ほれ、その……スマトホンとかで 〕


「嫌よ。これで私から告白なんかしたら、2回負けた気になるもの。それに……断られたりしたら立ち直れないわ」


〔 後半が本音じゃな。見かけによらず臆病な娘じゃ 〕


「人の心を読まないで。……そうよ、私は臆病なの。だから今もここにいるの」


 ミサキがユウマに言った「ママとの最期の時間を大切に」という言葉に嘘は無い。紛れもなく本心だ。


 しかしそれは、最後まで母を救う方法を探して見つからなかったときの絶望感に耐えられない『臆病な心』が踏みとどまらせた本心だ。


 臆病が悪いことだとは思わない。

 むしろ臆病であったが故に、ミサキはここまで生きてこられた。

 常にリスクが低い方へ、期待値が高い方へ、そうやって生きてきた。


「ねえ、ママ。臆病な私を……ゆるして」




 その頃、ユウマはダンジョンの中にいた。

 

「おおおおおおお! ボスはどこだああああああ!!」


 ダンジョンに入るとすぐに拳を構え、いつもの発声と共に拳を突きだす。


「ウルトラアルティメットパーーーンチ!!!」


 ドゴオオオオオォォォォォォン!!!

 

 凄まじい音を立てて、洞窟型ダンジョンの壁が崩壊していく。

 通路も、部屋も関係ない。

 問答無用で破壊されたダンジョンには、大きなトンネルが生まれていた。


「そぉぉこぉぉかぁぁ!?」


 あとは己の勘、嗅覚でボスを探しだし、ユウマはワンパンで打ちのめす。


 今回のボスモンスターは丨岩の大型人形ロックゴーレムだ。もちろんユウマはモンスターの名前など知らない。


 拳一発で胴をまるごと吹き飛ばされたロックゴーレムはサラサラと崩れ去る。


「ドロップ! カモーーーーン、レアドローーーーーップ!!!! ちっがぁぁぁぁぁぁっう」


 ロックゴーレムが消えたあとには漆黒の鉱石が残っていた。


 ユウマは鉱石を手に取り、セイジ先輩から借りた簡易鑑定眼鏡でアイテムの名称を調べる。


 【ゴーレムの核】


 なんとなくレアっぽい名前だけど、これは外れだ。ユウマが探しているアイテムではない。


 ユウマはゴーレムの核をとりあえずリュックに仕舞って、駆け足で次のダンジョンへと向かう。


「ウーールーートーーラーー、アルティメットパアアアァァァァァンチ!!!」


 ドゴオオオオオォォォォォォン!!!


 船型ダンジョンの船室がひとつに繋がった。


 分かりやすく船長室っぽいところにいたボスは、幽霊船長キャプテンゴーストだ。くどいようだがユウマのこいつの名前も知らない。


「ヘーブーンースー、デストロイブレス!!!」


 パンチが効かないときはブレスで焼き尽くす。

 キャプテンゴーストは断末魔の悲鳴を上げる間も貰えず昇天していく。


「ドローーーーーップ!!!! ちっがぁぁぁぁぁぁっう」


 見た目から目的のものとは全然違うのだが、念の為に簡易鑑定眼鏡を使う。


【キャプテンアイパッチ】


 やはり違う。

 分かっていたけど、違った。


 ユウマがこれもリュックに突っ込もうとしたら、ナイドラが待ったをかけた。


〔 それ、装備して 〕


「……ちょっとそんな気はしてた。お前好きそうだもんな、こういうの」


〔 そういう陽キャマウントはいいから、早く 〕


「はいはい、分かりましたよ」


 ナイドラに言われるがまま、キャプテンアイパッチを装着する。

 頭装備はバンダナだから……これはアクセサリ的な立ち位置になるんだろうな。


 視界の半分を塞ぐアクセサリにデメリットしか感じないが、なんとなく……もう片方の目の視力がめちゃくちゃ良くなっている気がする。


 今なら50メートル先の犬型モンスターにだって、ウルトラアルティメットパンチを当てられる気がする。


 それはそれとして、ユウマはすぐに次のダンジョンに向かわなくてはならない。


 ユウマはナイドラ好みの中二病装備を集めるためにダンジョンを巡っているわけじゃない。


 ミサキを、ミサキの母親を救う最後の望みを懸けてダンジョンのハシゴをしているのだ。


「ウルトラアルティメットオオオオォォォォパアアアァァァァァンチ!!!」


 ドッゴオオオオオオオオオオォォォォォォン!!!


 都内各地のダンジョンでは、壁やら床やら、果ては山までも、次々に破壊される音が鳴り響いた。



 残された時間は5日間。




――――――――――――――――――――

💀キャプテンアイパッチ

効果:視力強化

   命中率上昇


近くでも遠くでも、めっちゃよく見えます。

命中率補正がかかります。

物理的に片目を塞いでいるので、死角が増えてしまうのが玉に瑕。

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