第15呪 俺たちの未来は呪われている💀


 ユウマ達が放置ダンジョンをブレイクして2週間が経った。

 ふたりは今、都立の総合病院に来ている。


 ひとつめの目的は、『妖刀オニマサムネ』の呪いで倒れたミサキの精密検査だ。

 オニマサムネの呪いも、あくまでダンジョンの魔素をエネルギーにしたものなので、呪いという意味で後遺症のようなものが残ることは無い。

 しかし、ダンジョン内で受け身も取れずに倒れたミサキは、ダンジョンの地面でしたたかに頭を打っていた。


 頭を打ったら、病院で精密検査。

 ダンジョンに限らず、日常生活でも大事なことだ。

 

 そしてふたつめの目的は――。


「よお、久しぶりだな。ユウマ」


「セイジ先輩!」


「まだ、俺のことを先輩って言ってくれるのか……? 俺はユウマにあんなことをしたのに……」


「先輩はずっと俺の先輩っすよ。これまでも、もちろんこれからも」


 ミサキが精密検査を受けている時間、ユウマはセイジと待ち合わせをしていた。

 セイジもこの病院に通っているが、どこか怪我をしていたり、病を患っているわけではない。

 その理由は、セイジの手元にある。


「社長の具合、どうっすか?」


「まあ、ぼちぼちだな。あ、もう社長じゃねぇけど」


 セイジが押している車椅子には、セイイチロウが座っていた。

 ユウマに腹を殴られて気絶したセイイチロウは、すぐに病院に運ばれたが身体に異常はなかった。

 攻撃力9999のショートアッパーが鳩尾に突き刺さったとは思えない結果だ。

 あのとき叩き割った黄金の鎧と、鍛え上げられた筋肉の鎧、ふたつが揃ってこそだろう。


 身体に異常はなかった――だが目覚めたとき、セイイチロウの心は壊れていた。

 なにに対してなのかは分からないが、しきりに「すまない」「ゆるしてくれ」と呟いている。

 セイジが病院に通っているのは、壊れてしまった父の見舞いのためだ。


 セイイチロウの体調をかんがみ、臨時の取締役会において代表取締役社長の退任が決まったのは昨日のこと。

 空いた席にはセイジ――ではなく、順当に副社長が新社長の椅子に収まった。

 今回の陽光タワー大規模ダンジョン攻略から始まった『クイックラッシャー』による隠ぺい事件は、会社の広報が発表するかたちでおおやけのものとなった。

 新社長による最初の決定だ。


 新社長が率いる新生『クイックラッシャー』は世間からの厳しい目線の中で、この業界を戦い抜いていくことになる。

 セイジは『クイックラッシャー』のブレイカーを引退し、バックオフィスから管理職への道を歩むことを決めたそうだ。


「俺があの会社のコンプライアンス意識を変えるんだ。それが俺なりの贖罪だと思っている」


 父親が一代で築いた会社のカルチャーを変えていく。

 美談ではあるがきっと簡単なことではない。


「あの金、本当に良かったのか?」


「俺、社長殴っちゃいましたし、貰えないっすよ」


 大規模ダンジョン攻略隠蔽事件のときにセイジから渡された現金1億円のことだ。

 ユウマは社長に腹パンすると決めたときから、汚い金は突き返すと決めていた。


「ユウマ、なんか変わったな」


「そっすか?」


「ああ、うまく言えないけど……目が前とは違うよ。いまのユウマなら絶対に一流のブレイカーになれるって断言できるね」


「だといい……いや。なるっすよ、超一流のブレイカーに」


「だな。俺も超一流の会社員になるよ」


 そう言ってセイジは笑った。


      💀  💀  💀  💀


〔 あいつらの邪心は喰った 〕


 放置ダンジョンをブレイクした後、ナイドラが言った。

 セイイチロウのよこしまな思想、セイジを縛っていた父の邪な呪縛、そういった心の闇を、ナイドラは喰ったと言う。


〔 我は邪龍。邪を喰らう龍である 〕


(邪龍ってそういうこと? むしろ聖属性じゃん! 聖龍じゃん!!)


 ナイドラの告白に、ユウマが心で盛大なツッコミを入れたことは言うまでもない。


 小さなベンチャー企業だった『クイックラッシャー』が急速に成長するなかで、いつしかセイイチロウの心は邪な思想で真っ黒に染まってしまっていた。

 ナイドラによってセイイチロウの邪心が喰い取られた結果、罪の意識に耐えられなくなった心はバランスを崩し、結果がアレらしい。


「自業自得とはいえ、ちょっと責任を感じなくもない」


「責任なんか感じる必要ないわ。私たち殺されるところだったのよ?」


「まあ、たしかに。正当防衛? になるのか?」


「そう意味では……過剰防衛かもしれない」


 ユウマとミサキは、いつものように『Amakusa』で乾杯する。

 険悪だった初日を知っている戸田マスターは、ふたりが仲良く杯を交わしている様子を温かく見守っていた。

 ふたりがイイ感じになると良いな、などと淡い期待を抱きながら。


「そういえば、ふたりはこれからも一緒にダンジョン攻略していくんだって?」


「あ、そうなんすよ。セイジ先輩が呼んでくれていた仕事も無くなるし。呪いを解く方法を探しながらダンジョンをブレイクして回るのも『カッコいい』かなって。そしたらミサキも一緒に来るって言うから」


「ユウマには2度も助けられたから。借りっぱなしは性に合わないの。もちろん、報酬はキッチリ貰うわよ」


 少し見ない間に「ユウマ」「ミサキ」と呼び合っているふたりを、茶化すようなことを戸田は絶対にしない。

 ふたりはもう立派な大人だし、戸田はもっと大人だ。


 ブゥゥゥン、ブゥゥゥン、とユウマのスマートフォンが震えた。


「うげ、母ちゃんだ」


「あら、いいじゃない。ちゃんと話しておいでよ」


 まだ母親の意識が回復しないミサキに気を遣ってではなく、ただ母親との会話を聞かれたくなくてユウマは店の外に出る。



「うん、うん。ちゃんとやっとーけん心配せんでよかばい」

(うん、うん。ちゃんとやってるから心配しなくて良いよ)


「うん、そう。もうちかっとこん仕事ば続くっことにしたけん。まだ帰れんと」

(うん、そう。もう少しこの仕事を続けることにしたから。まだ帰れないんだ)


「そがん泣かれてもさ。すぐ立派かブレイカーんなって顔ば見せに帰っけん。ちかっとだけ待っとって」

(そんな泣かれても。すぐ立派なブレイカーになって顔を見せに帰るから。ちょっとだけ待ってて)



 泣き出した母親をなだめすかし、電話を切ってからユウマは気付いた。


「いやいや! このグローブの呪いを解かないと、恥ずかしくて地元なんか帰れねぇよ! 絶対同級生からバカにされるじゃん! いい歳して中二病の痛いヤツって陰口叩かれるじゃん!!」


 ユウマが故郷に錦を飾る日は、まだまだ遠そうだ。




―――――――――――――――――――――――

『攻撃力9999の呪われたグローブ💀は最強です ~中二病の邪龍とダンジョン無双~』


「高坂ユウマと邪龍のグローブ」はいかがでしたでしょうか。

 ここでまずは区切りとなりますので、少しでも面白いと思われた方、続きが気になるという方は、どうか★での評価を頂けますと幸いです。


 ★でも、★★でも、★★★でも、思ったままの評価でかまいません。

 どうか応援のほど、よろしくお願いいたします。


 以上、★クレクレアピール失礼しました。


 二章はミサキにスポットを当てた「山縣ミサキと女神のカチューシャ」になります。



 引き続き、よろしくお願いいたします。

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