第14呪 奴の刀もちょっと呪われている💀
「……お父さん!? ごめんなさい、ごめんなさい。ちゃんとやります。まだしくじってません。ちゃんとやりますから! 俺を捨てないで!!」
「この役立たずがっ」
「ごめんなさ、ぐえぇ」
涙を流してすがりつき、許しを得ようとするセイジを、セイイチロウは役立たずと罵り
50代も後半に差し掛かろうというのに、元エースブレイカーだった男の肉体はまだまだ現役だった。
セイジの深紅に光る鎧も目立ったが、セイイチロウの黄金の鎧はさらに目立つ。
黄金聖闘士や金のモビルスーツもかくや、といった風情だ。
さらに金の大扉と並ぶことで眩しさが倍増している。ここまでくると嫌がらせだ。
残った3人のブレイカー達も、従うべき雇い主の登場に落ち着きを取り戻した。
ユウマは4人の男をひとりたりとも見失わないよう、少しだけ後ろに下がって視界を広げた。
これなら、姿を消してもすぐ分かる。
「君が
「…………」
ユウマもミサキも答えなかった。
ここまで敵意を向けられているのに、素直に返事をする
「答えろよっ! このクソガキどもがっ!!」
怒声で相手を萎縮させ、精神的に支配下に置こうとするタイプ。
もはや平成初期の亡霊だ。
「あんたがセイジ先輩の父親か?」
「こんな出来の悪い息子など知らん」
「てめぇ、それでも親かよ」
「知らんと言ったろ? 人の話も聞けんのか」
ユウマはセイイチロウを睨みつけるが、セイイチロウは気持ち悪い微笑みを浮かべている。
「はっはっは、冗談が過ぎたな。まあ、落ち着きたまえ。儂がおらん間に愚息がつまらんことを言ったようだ」
「はあ? あんたが言わせてんだろうが」
「儂が? まさか!? 儂は愚息にリスクを教え、次期社長としてなんとかするよう促しただけだ。あとは全部、奴が自分で考えて実行しただけのこと」
「悪徳政治家みたいなこと言いやがって。きたねぇ野郎だな」
何を言っても噛みつくユウマに、セイイチロウは呆れ顔で諭す。
「失礼だな。ウソなどついていないし、儂ならもっとスマートにやる。仮に儂があいつの立場なら、人質を取るなんてくだらないことはしないな。奥で伸びてるヤツに、姿を消したままで君の心臓をひと突きにさせたさ」
あまりに物騒な発言に、ユウマとミサキに緊張が走った。
「はっはっは。そう構えるな。仮に、と言ったろう? ただの仮定の話だ」
なんと白々しいことか。
今のはユウマ達に向けて言ったのではない。
手下のブレイカー3人に「合図をしたらあの2人を殺せ」と命令したのだ。
言質を取られない方法で。
もはやユウマ達に猶予は無い。
「おい、ナイドラ。聞いてるか?」
〔 ナイドラとは我の愛称か? 〕
〔 悪くないな。いや、むしろ良きである 〕
「俺はいずれ必ず、お前の呪いを解く」
〔 やれるものならやってみよ 〕
「だからそれまでの間、お前の中二病に付き合ってやるよ――カッコいいこと、やろうぜ」
〔 ほぉ、興味深いな 〕
「まずはあそこにいるクズを腹パンして反省させる」
〔 ふははは、それは面白そうだ! 乗った! 〕
もちろん、ユウマと
傍から見れば、ユウマの独り言だ。
仮定の話で殺害を
「おい! さっきから、なにをブツブツと」
「うっさか! おいたちがわいにくらす相談ばしよったい!」
(うるさい! 俺たちがお前を殴る相談をしてるんだよ!)
「な、なんだ? 急に訛りやがって。この田舎モノがっ」
セイイチロウは様子が変わったユウマを警戒しつつ、パチンと指を鳴らす。
これを合図に、手下のブレイカー達がユウマに襲いかかる手筈になっていた。
しかし、ブレイカー達は動かない。
いや、動けない。
「
邪龍のグローブから放たれる強烈な殺気。
ブレイカー達は既にイメージの中で何度も殺され、心はバキバキに折れていた。
「そのグローブのスキルか?
セイイチロウが鞘から刀を抜いた。
『妖刀オニマサムネ』
セイイチロウをエースブレイカーへと押し上げた
別名『呪いを振りまく刀』とも呼ばれるオニマサムネの一番の特徴は、刀に宿る怨恨の魂が放つ呪いのデバフ(弱体化)スキルだ。
それもアクションスキルではなくパッシブスキル。刀を抜くだけで周囲の生物を無条件に呪いが襲う。敵味方関係なく。
「貴様の武器がいかに凄かろう……と? なぜだ! なぜ動ける!?」
セイイチロウがオニマサムネを抜けば、その呪いで誰もが歩みを止めた。
これまで誰ひとりとして例外などいない。
現に、セイイチロウの一番近くにいるセイジは頭を押さえてしゃがみこんでいるし、一番遠くにいるミサキも床に倒れている。
オニマサムネのスキルはいつも通り、平常運転で発動しているはずだ。
だが、目の前の男は、ユウマは悠然とセイイチロウの方に近づいてくる。
「知らん。おいにかかっとぉ呪いん方が強かとじゃろ」
(知らないな。俺に掛かってる呪いの方が強いんだろう)
「なに言ってんのか分かんねぇんだよ!」
セイイチロウがオニマサムネでユウマに斬りかかる。
研ぎ澄まされた刃が、ユウマの左前腕を狙う。
「お前の武器、腕ごと斬り落としてやる!」
オニマサムネの刃が、綺麗な太刀筋でユウマの腕を斬り落と――せなかった。
確かに刃は腕に当たった。
正確にはユウマの腕に巻かれた包帯に触れた。
だが、オニマサムネの刃は不思議な力に跳ね返された。
さっきまでくすんだ色をしていたはずの包帯が黄金色に輝いている。
「なんだ……。なんなんだよ、それは!?」
「こい? さっき拾うた」
(これか? さっき拾った)
「拾うた? 拾っただと!?」
「もうよかか? つぎはおいんばんぞ」
(もういいか? 次は俺の順番だ)
「は?」
気づいたときには、セイイチロウの目の前にユウマの姿があった。
その距離、およそ30センチメートル。
刀を持っている者が詰められて良い距離ではない。
そして、この距離はインファイターでボクシングをしていたユウマの射程距離だ。
「がばいすごかパンチ」
(とてもすごいパンチ)
スキルでは無い。
邪龍のグローブでただ殴るだけのショートアッパーがセイイチロウ自慢の鎧を叩き割り、ユウマの拳が鳩尾へと突き刺さる。
「ぐはっ! な、んだ、この威力は!? ぐほぉ」
ブレイカーになって30年、食らったことのない衝撃がセイイチロウの体を貫いた。
同時にセイイチロウの中にあった
「こん、ふーけもんが。父親がみたんなかことすんな」
(このバカやろうが。父親がみっともないことするな)
セイイチロウの意識はそこで途切れた。
最後までユウマがなにを言っているのかは理解出来ないまま。
――――――――――――――――――――
💀ユウマの装備
武:邪竜のグローブ 攻撃力9999
頭:レザーヘッドバンド 防御力10
胴:レザーライトアーマー 防御力20
腕:ミイラ王の包帯 防御力???
脚:レザーレッグカバー 防御力10
レザーシリーズと呼ばれるブレイカーの基本装備のひとつです。
一式揃えるだけでも希望小売価格50万円とそれなり。ユウマは中古品を買いました。
ミイラ王の包帯は鑑定前のため防御力不明です。
ダンジョンで拾った装備品は鑑定しないと性能が分かりません。
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