第2呪 俺の人生は呪われている💀
30年前。
世界中で同時多発的に発生したダンジョン化現象。
黒い霧に覆われた空間は、モンスターがひしめく『ダンジョン』となる。
ダンジョンに潜ってボスモンスターを撃破し黒い霧を払う者を、人はダンジョン
大規模ダンジョン攻略が始まる数日前。
ここ、
「ヤっくん、ヤっくん! グレートミノタウロスの左に回って!」
ハイブリーチされた少し長めの金髪をたなびかせ、深紅のメタルアーマーに身を包んだ優男が、色黒で筋肉質な仲間の若者『ヤッくん』に指示を出している。
彼の名は
「オーケー、リーダー。――ちっ、おいっ、オッサン! こんなところで
ダンジョンではボスモンスターと戦う高ランクのブレイカーのほかにも、低ランクのブレイカーが周囲でモンスターと戦っている。
彼らは、ボス戦の邪魔にならないように雑魚モンスターを駆除する役目、
ランク別に役割を分担することで、高ランクのブレイカーはボス戦に集中出来るし、低ランクのブレイカーは雑魚モンスターのドロップアイテムで小銭稼ぎが出来る、いま流行りのチームシステムである。
先ほど“ヤッくん”から『オッサン』と呼ばれ舌打ちされていた男の名は高坂ユウマ――この物語の主人公である。
20代前半の若者が多い低ランクのブレイカーの中で28歳のアラサーはもう『オッサン』だ。
当たり前だが、ユウマにも若い時代はあった。
夢と希望に満ち満ちていた青春時代が。
ユウマは地元で「神童」と呼ばれていた。
高校では、空手部とボクシング部と剣道部と柔道部を掛け持ちし、全ての競技で県大会を3連覇した地元の星だった。
インターハイも良いところまでいったし、もう少し部活を絞っていれば優勝も出来ていた、とユウマ自身は思っている。
高校時代のユウマは、自分がブレイカーのトップになるのだと疑っていなかった。
学校でも「有名になる前にサインをくれ」と色紙を持った生徒が行列を作っていたものだ。
ユウマは高校を卒業すると同時に、親の反対を押し切って18で上京した。
ダンジョンは地元でも発生するが、都会は規模が違う。
ブレイカーで有名になるなら絶対に東京に行くべきだ、ユウマなら必ず東京でも成功できる、と同級生たちもユウマの背中を押してくれた。
ユウマの将来設計では、フリーのブレイカーとして1年目で大活躍、これに目をつけた大企業のダンジョンブレイク部門にスカウトされて、2年目には企業と専属契約を結んでいるはずだった。
しかし現実はどうだ。
上京して10年、いまだに低ランクから上がることも出来ず、コネでダンジョン攻略の助っ人に呼んで貰っては
日本の首都、東京の壁は高校生のユウマが想定していたよりも、ずっとずっと高かった。
都会はブレイカーの専門教育施設が充実しているから、若者の成長が早い。
都会はお金持ちの子が多いから、親のお金でいい装備を身に着けている。
都会は人口が多いから、新人でもブレイカーの層が厚い。
高校のスポーツがちょっと人より得意なだけのユウマでは、同期に差をつけられるどころか、後輩にもスイスイ追い抜かれる始末。
そんな自分を追い抜いて行った同期や後輩もほとんどが、高ランクブレイカー同士の椅子の取り合いに負けて引退しているか、危険なダンジョンに挑んで命を落としている。
それでもユウマは、まだ自分がブレイカーとして活躍している未来を諦めきれず、最底辺のブレイカーとしてダンジョンに潜り続けていた。
「おい、オッサン。これ、やるよ。」
ダンジョンが崩壊して、外の世界に戻ってきたユウマに、ヤッくんが『ミノタウロスの角』を放った。
荷物がいっぱいで入らなかったらしく、捨てるよりは、と譲ってくれたのだ。
ボスモンスターのドロップアイテム――ではなく、雑魚モンスター『
ダンジョンで手に入れたアイテムは、外で売ればレア度に応じてそれなりのお金になる。
ダンジョン装備の加工素材として使われることがほとんどだが、ダンジョンマニアが
『ミノタウロスの角』は決してレアなアイテムではないが、それでもひとつ2万円くらいで売れるからユウマにとってはバカにならない。
「あ、ありがとう。これで今月も家賃が払えるよ。はははは」
半周りくらい年下の男にタメ口どころか『オッサン』呼ばわりされ、無様にもドロップアイテムの施しを受け、自尊心の傷口に気づかないふりをしながら愛想笑いを返す。
ここが今、ユウマが立っているポジションだ。
因果応報と言うべきか。
おおよそ10年前のユウマも、25歳を超えてなおうだつの上がらないブレイカーに対して「才能も運も無いんだから辞めたらいいのに」と思っていた。
ユウマ本人には自覚がないが、きっと態度にも表れていたに違いない。
その頃のユウマには想像も出来なかった未来が
「オッサン、なんでそんなにブレイカーにこだわるんだ? こんな『命を落としても自己責任』なんてブラックな仕事にこだわってたら、そのうち死んじまうぜ?」
ヤッくんは口は悪いが根は優しいタイプのブレイカーだ。
これもユウマのことを本気で心配して言っている。
さっきの『ミノタウロスの角』もマウンティングなんかではない。
彼は心からの善意でユウマに譲ったのだ。
間もなく三十路になろうというのにうだつの上がらないヤツだ、なんて思っていない――と言えばウソになるが、それはヤッくんに限ったことではない。
「そう言ってやるなよ。男には引くに引けないもんがあるんだよ。なあ、ユウマ?」
さっきの闘いで『リーダー』と呼ばれていた優男のセイジが会話に割って入ってきた。
セイジとヤッくんは、ここ数年でいくつものダンジョンをブレイクしてきた相性抜群のバディだ。
「セイジ先輩……。そう、なんですよね。俺、ブレイカー辞めてもほかに出来ることないし、実家にはちょっと帰り辛いっていうか……」
セイジはユウマが上京したての頃から良くしてくれている2つ年上の兄貴分だ。
彼の親は、新進気鋭のダンジョンブレイク企業『クイックラッシャー』の社長である。なにを隠そう、この現場もクイックラッシャーが霊園の管理会社から依頼を受けた企業案件だ。
セイジがクイックラッシャーのエースブレイカーとして、このチームのリーダーをやっているからユウマもこうして現場に呼んで貰えている。
ユウマにとっては頭が上がらない大恩人である。
彼がいなければ、ユウマはブレイカーを続けたくても現場に入ることすらままならず、志半ばでブレイカーを辞めることになっていたかもしれない――その方が早々に諦めがついて良かった、とも言えるが。
ヤッくんが、それじゃまた、と現場を後にするのを見届けて、セイジが耳打ちしてきた。
「そんなユウマにいいニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」
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💀時間軸のお話
パラレルワールドですが、現代の2020年代を舞台にしています。なので、ダンジョン化現象が起こった「30年前」というのは1990年代ということになります。
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