【完結】攻撃力9999の呪われたグローブ💀は最強です ~中二病の邪龍とダンジョン無双~

石矢天

一章 高坂ユウマと邪龍のグローブ

第1呪 このグローブは呪われている💀


『 デロデロデロデロデーデン♬

  じゃりゅうのグローブには のろいが 

  かけられていた!

  ※このそうびは はずせない 』


 頭の中に流れてきた不吉なBGMと、メッセージボイス。

 この日から、良くも悪くもユウマの人生は大きく変わってしまった。


      💀  💀  💀  💀


 ダンジョンを攻略ブレイクすることを生業なりわいとする者をダンジョン攻略者ブレイカーと呼ぶ。

 最底辺ブレイカーの高坂こうさかユウマはいま、生きるか死ぬかの瀬戸際に立っていた。


 長年の付き合いであるブレイカーの先輩に誘われて、ここで成り上がるのだと挑戦した大規模ダンジョン攻略。

 途中までは、それはそれは順調だった。

 大型のモンスターを20匹以上も討伐した。

 このままダンジョンをブレイクすれば、その貢献度からブレイカーランクもきっと上がる――ハズだった。


 ダンジョン最奥の大空洞に、突如現れた強力なボスモンスター『黒い一つ目巨人ノワールサイクロプス』にチームは潰走。

 先輩にも見捨てられ、崩れた床からダンジョンの下層まで落ちたユウマは、独りでノワールサイクロプスと対峙していた。


 ――グオオオオォォォォォォォ


 ざっくり8mはあろうかというノワールサイクロプスが雄叫びを上げる。

 バリトンボイスがダンジョン内の空気を震わせた。

 ユウマの身体にも空気の振動が伝わってくる。


(ドームまでバンドのコンサートを聴きにいったときみたいだな)


 崖っぷちの状況だと言うのに、ユウマの頭はなんだか他人事のようにスッキリしていた。


 ノワールサイクロプスが、その大きな腕を振り上げた。

 拳の大きさは約2メートル。ユウマの身長172センチメートルよりもかなりデカい。 

 その拳を一発でも喰らったなら、十中八九、ユウマはこの世とお別れすることになるだろう。



 ユウマは巨大な拳を向けられる前に、ノワールサイクロプスに向かって大剣クレイモアを投げつけた。

 今日の大規模ダンジョンを攻略するために、大枚をはたいて買った虎の子の武器だ。

 ユウマがそんな大切な武器を投げつけたのには、当然だが理由がある。

 どう自分を過大評価しても、このクレイモアであのデカブツを倒せるとは思えなかったからだ。

 ならば、こんな重たいものを持っているメリットなどない。


 回転しながら飛んできたクレイモアを、ノワールサイクロプスは虫を払うかのように軽々と、そして面倒くさそうに跳ねのける。


 唯一の武器を手放したユウマは、きびすを返して一目散に逃げだした。

 全速力で、ただただダンジョンを走り回った。

 時には石につまづき、時には岩陰に身を潜めて息を整えながら、アホほど広いダンジョンを逃げ回った。

 なんとか上に戻る道を探して、ダンジョンから脱出する。

 それだけが、ユウマの命が助かる唯一の道だった。



 ノワールサイクロプスは、機敏とは言えない動きで、さりとてその巨体を活かした大きな歩幅で、ドスン、ドスンと大きな足音を立てながらユウマを追ってくる。

 全速力で逃げるユウマ。

 大股で追うノワールサイクロプス。



〔 ち……ら……し……か? 〕


 突然、必死で逃げているユウマの頭にびっくりするくらいのイケボが響いた。


(ちらし? 幻聴が聞こえるにしても、もっと他に気の利いたやつ無かったのかよ……)


 幻聴を払い除けようと頭を振るユウマの頭に、またしても謎のイケボが響く。


〔 ちからがほしいか? 〕


 今度ははっきりと聞こえた。「力が欲しいか?」と。


「ちからって、ちから? パワーのこと? そんなもの欲しいに決まってんじゃん! 見りゃ分かんだろ!!」


 いまユウマが置かれている状況は、控えめに言っても絶体絶命というやつだ。

 すがれるものはワラにだって、ぺんぺん草にだってすがりたいに決まっている。


(本当に力をくれるのなら、もう幻聴でも何でも良いよ)


 ユウマは走りながら脳内に響く声と会話する。


〔 ならば、我と契約せよ 〕


「け、契約!? なんの? って確認してる場合じゃねぇか。 分かった! する! 契約でも何でもするから! マジで助けて!!」


〔 我は悪夢の竜帝ナイトメアドラゴンエンペラー 〕


〔 ここに契約は成立した 〕


 突如、ユウマの目の前に『真っ黒な闇』のようなものが現れ、左右の拳に覆いかぶさった。


「なに? なんなの、この黒いヤツ!?」


〔 契約者よ叫べ! 究極を超えた拳ウルトラアルティメットパンチと!! 〕


「え!? ウルトラなに? もう一回!!」


〔 究極を超えた拳ウルトラアルティメットパンチだ!!! 〕


「なんだそれ!? めちゃくちゃダサいな!」


〔 ダサくない! 叫べ!! 〕


「わ、わかったって。ウ……、ウルトラ、アルティメット、パンチ」


〔 そのまま拳をヤツの方に突き出せ!! 〕


「こ、このまま!? パンチするの!? 絶対届かないよ!?」


〔 いいから、さっさと言う通りにしろ!! 〕


「ええい! もうなるようになれ!! ウルトラアルティメットパーンチ!!」


 ユウマは後ろを振り向き、迫ってくるノワールサイクロプスに向かって拳を突き出した。


 やはり圧倒的にリーチが足りない。

 その拳は誰がどう見ても、相手に全く届いていなかった。

 しかし、突き出した拳の先――ノワールサイクロプスの胸から腹にかけて、丸くて大きな風穴があいていた。

 それはもう綺麗な楕円の空洞だった。


 その穴は拳の形をしていた。


 ――グ、グオォ?


 ノワールサイクロプスが戸惑いの声をあげている。

 なぜ自分の胴に風穴が空いているのか、全く理解出来ていない。

 気がついたら身体ごと臓器をゴッソリ持っていかれていたのだから、それは混乱して然るべきである。


 いかにモンスターとはいえ、そんな状態で生きていられるはずもなく、ズゥゥゥゥンと大きな音を立ててダンジョンの地面へと倒れこんだ。


「え? 死んだ? こいつ死んだの? 俺、帰れるってこと?」


 ノワールサイクロプスの身体が、足先からサラサラと消えていく。


「おおおおぉぉぉぉっしゃああああぁぁぁぁ、おらあああぁぁぁぁ」


 ユウマは諸手を挙げて、雄叫びも上げた。

 そのとき、ユウマの視界に入ってきたものは、いつの間にか右手と左手に装着されていたグローブだった。

 さっきまで真っ黒な闇みたいだったが、グローブへと変貌していたのだ。

 ユウマの手を包んでいたのは、レザーのオープンフィンガーグローブ。

 そこまではいい。ちょっと合わせる装備は選びそうだが、まあいい。


 問題はデザインだ。


 手の甲の部分に燦然さんぜんと輝く『6つのメタルの突起』、修学旅行生がお土産で買いそうな『ドクロと龍をあしらったデザイン』、手首には『無駄にぐるぐる巻かれたチェーン』……。


「くっそダセェ! 中二かよ! 俺もう28だぞ!!」


 この窮地を救ってくれたことには感謝しているが、これ以上このグローブをはめていると蕁麻疹じんましんが出そうだ。

 だが、グローブの外し方が分からない。

 手首にはチェーンが巻かれていて緩めるところがない。

 ユウマがどんなに強く引っ張ってもグローブはピクリともしなかった。


「え? どうやって外すんだ、これ」



『 デロデロデロデロデーデン♬

  じゃりゅうのグローブには のろいが 

  かけられていた!

  ※このそうびは はずせない 』


 頭の中に直接響く不吉なBGMと、メッセージボイス。


「はっ!? のろい? 外せない!? ウソだろ!!」


 呪われたダンジョン装備なんて聞いたことがない。

 ユウマはなんとかしてグローブを外そうとするが、むしろチェーンの締まりがキツくなっていく。


〔 だから外せないって。無理するな 〕


 またしても、頭の中に直接イケボが話し掛けてくる。


「おまっ、ふざけんな! こんな中二病こじらせたデザインのグローブをつけたまま生活しろってのか? ムリムリムリムリムリムリムリムリムリ」


〔 よく見ろ、バカめ。カッコいいだろうが 〕


「てめぇ、センス壊滅してんのか! ってか邪龍のグローブってどういうことだよ。お前ナイトメアなんちゃらじゃなかったのかよ!?」


〔 我が名は悪夢の竜帝ナイトメアドラゴンエンペラー。邪龍は種族だ 〕


「こいつ、名前も中二病こじらせてやがる!! それ、絶対自称だよな!? お前が自分でつけた名前だよな!?」


 ユウマは頭を抱えてダンジョンの床を転げまわった。


(いったい、どうしてこんなことになった? 俺はどこで選択を間違えた!?)


 崩壊が始まったダンジョンの中で、ユウマは大規模ダンジョンに挑むと決めた自分の選択を思い出す。



――――――――――――――――――――

💀邪竜のグローブのデザインイメージ

 ベースは90年代の大ヒットライトノベル「魔術士オーフェン」のオーフェンがしているレザーのフィンガーグローブです。

 あれの手の甲に上段3つ下段3つのメタル突起(ボルトみたいなやつ)がついていて、手首のあたりには無駄にチェーンが巻かれています。

 黒いレザー生地や、メタルプレートにはドラゴンとドクロががっつりデザインされており、中二魂をくすぐります。

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