第28話 富山県
「二人はどこから来たの?」
美咲さんが不二尾藤子の二人に訊く。
「富山の高岡です」
我孫留不二子の二人が二人同時に答える。
「へぇ~」
「富山かぁ」
みんな口々声を上げる。
「・・・」
しかし、その後、会話が続かず、僕たちは全員沈黙する。
「富山って・・」
僕も言葉に詰まる。
「・・・」
誰しもが、富山について何も思い浮かばなかった。
「富山の薬売りとか」
守也氏がそんな沈黙を破り言った。
「ああ」
みんなとりあえずうなずく。それはみんな知っている。
「・・・」
しかし、そこでまた沈黙――。それ以上、やはり誰も何も思い浮かばない。
「ていうか富山ってどこでしたっけ」
赤木氏が隣りの僕を見て言った。
「えっ?僕?」
僕は驚いて赤木氏を見返す。
「・・・」
僕は東京からまったく出たことがない。修学旅行で京都と沖縄に行ったくらいだ。
「何言ってんのよ」
そこで、美咲さんが呆れたように言った。
「えっ、美咲さん知ってるんですか」
僕たちは美咲さんを見る。
「富山は東北でしょ」
「あっ、そうなんですか」
僕と赤木氏は驚いて反応する。
「知らなかったなぁ」
「違うでしょ」
だが、その時、守也氏がすかさずツッコんだ。
「違うと思いますよ」
「じゃあ、どこなのよ」
美咲さんが守也氏を睨むように見る。
「・・・」
守也氏沈黙。
「ほらみなさい」
「いや、でも、東北じゃないですよ」
「そうだったかしら」
「僕も東北ではない気がします」
僕も言った。
「じゃあ、どこなのよ」
「・・・」
それには、僕も守也氏も答えられない。
「ていうか本人に聞けばいいじゃないですか」
赤木氏が言った。
「あっ、そうか」
僕は顔を上げた。そして、みんなで藤尾不二子の二人を見る。
「東北じゃないです」
二人は笑いながら答えた。
「やっぱりほら」
守也氏は、勝ち誇ったように美咲さんを見る。美咲さんはばつが悪そうにそんな守也氏から目を反らす。
「そうだったかしら」
そして、などと言って、美咲さんは誤魔化す。
「北陸です」
藤尾不二子の二人が言った。
「似たようなもんじゃない」
まだ美咲さんは間違いを認めようとしない。
「いや、全然違いますよ」
そんな美咲さんに守也氏がツッコむ。そこでみんな笑った。
「ていうか何でこんなことで盛り上がってんですか」
僕がツッコむ。
「いいんです。大体どこもそんなリアクションですから」
二人は笑う。
「はははっ、そうだね」
「何にもないですから」
そして、みんなで笑った。
「じゃあ、美咲さんも来たし、あらためて乾杯しようか」
「そうですね」
そう守也氏が言うと、みんなうなずいた。
「じゃあ、二人を歓迎してかんぱ~い」
「かんぱ~い」
みんなのその元気いっぱいな声が部屋いっぱいに広がる。君子さんはライバルと言っていたが、でも、仲間が増えることは、やっぱり、うれしいことだった。
「私たち東京楽しみにしていたんです」
藤尾不二子の二人が言った。
「そうなんだ。何で?」
僕が訊いた。
「ラーメンがおいしいって」
「そこ・・?」
「はい、ラーメンがおいしいって、色々雑誌も見てたんです」
「ラーメンが好きなんだ」
美咲さんが言う。
「はい」
二人はうれしそうに答える。
「じゃあ、松葉に明日みんなで行こうか」
守也氏が言った。
「いいですね」
みんな賛同する。
「私もちゃんと誘うのよ」
美咲さんが守也氏を睨むようにして見る。
「大丈夫ですよ」
守也氏は、その迫力にたじろぎながら答える。
「本当でしょうね」
「本当ですよ」
その守也氏のタジタジな姿にみんな笑う。
「ていうか、美咲さんいないとラーメン食べれないんじゃない」
赤木氏が言った。
「何で?」
僕が訊く。
「みんなお金ないもの」
「そうか」
「そういう時だけ、ちゃんと誘うのよね」
そう不満そうに美咲さんはチューダーをすすりながら言うと、その姿にまたみんな笑った。
「ごちそうになります」
そして、みんなで美咲さんに向かって頭を下げた。
「しょうがないわねぇ」
仕方がないというような苦渋の表情を浮かべながらも、どこかうれしそうな美咲さんだった。そこはやはり姐御肌の気質で、みんなから頼られるとうれしいらしい。
その日は、夜中まで、いつもの赤木氏特製のキャベツ炒めとチューダーでみんなで飲み明かした。
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