第26話 不二尾藤子
「僕たちの時はお出迎えなんて一切なかったぞ」
守也氏が愚痴っぽく言う。僕たちはアパートの外に出て、その敷地の入口で不二尾藤子さんの到着を待っていた。
「僕もありませんでしたね」
赤木氏も言う。
「・・・」
僕など路上からいきなり訳も分からずここに連れて来られた。
「それだけ大型新人ってことなんですかね」
赤木氏が言う。どんな人なんだろう。僕たちは不安と期待をないまぜにした心持ちで、その君子さんの言う大型新人を待った。
「しかし、どこで見つけて来るんですかね。君子さん」
僕が言う。
「そこが謎だよね」
守也氏もうなずく。
「はい」
「匂いって言ってましたけどね」
赤木氏が言った。
「匂い?」
僕と守也氏が赤木氏を見る。
「はい、前に僕、君子さんにそれとなく訊いたことがあるんですよ。そしたらそう言ってました」
「匂いかぁ・・」
守也氏がうなる。
「なんか確かに鼻は利きそうですよね。君子さん」
「うん」
僕が言うと二人は大きくうなずいた。
「あっ、き、来ました」
その時だった。赤木氏が道の先の方を指さし叫ぶ。僕たちもその方を見る。確かに見知らぬ女性が、大きな荷物を持ってトキワ荘に向かって歩いて来るのが見える。
「あれですよ」
僕も興奮して叫ぶ。
「ああ、間違いないな。大きな荷物を持ってる」
守也氏。
「はい」
そして、その女性は、僕たちの前までやって来た。
「不二尾藤子さんですか」
僕が訊ねる。
「はい」
「あれ?・・、どちらが不二尾藤子さん?」
しかし、僕たちの前にやって来た不二尾藤子さんはなぜか二人いる。
「どっちもです」
二人がハモルように言った。
「はい?」
僕たち三人も同時に声を出す。
「二人とも、不二尾藤子さん?」
意味が分からない。
「あっ、もしかして」
赤木氏がそこで何かに気づき、大きな声を出した。
「何?」
僕と守也氏が赤木氏を見る。
「そう、私たち、二人で一人なんです」
その時、二人がまたハモルように言った。
「えっ」
僕と守也氏は驚いてまた二人を見た。
「二人で一人?」
僕と守也氏が二人をさらに目を大きくして見る。
「あなたたちは二人で一人なんですね」
しかし、すでに合点のいっている赤木氏は言う。
「そうなんです」
二人はまたハモる。
「???」
しかし、僕と守也氏はまったく分かっていない。
「我孫留(あびる)不二子です」
「藤尾みどりです」
すると、二人が一人ずつ名乗り始めた。
「二人で不二尾藤子です」
そして、最後にまた二人はハモる。
「そうか、二人で一人というのはそういうことか」
そこで初めて僕と守也氏は得心がいった。
「藤子不二雄さんみたいだな」
守也氏が言った。
「でも、なんかややこしい名前ですね・・💧 」
僕は困惑気味にそれを受けとめる。
「お二人は姉妹なんですか」
赤木氏が訊いた。二人の顔はそっくりだった。
「いえ、赤の他人です」
二人はまたハモるように同時に答える。双子みたいだ。
「えっ、そうなんですか」
「はい、よく驚かれます」
また、二人は同時に言う。
「そっくりですよね」
僕が言う。
「はい」
二人の顔はそっくりだった。息も合っている。しかも、二人とも赤い縁の似たようなメガネを掛けて、似たようなおかっぱ頭をしている。服装もどこ似たような趣味だ。
「・・・」
僕たち三人は、姉妹じゃないと聞いても、どこか信じられなかった。
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