異なる次元にて愛を叫ぶ

譚月遊生季

※この作品はフィクションです

 私には「推し」がいる。

 顔が良くて、スタイルも良くて、声も良くて、性格も良い……いやこの場合の「良い」は一般的な「良い」とはまた違うんだけど、彼の生きてきた背景とか複雑な立場とか秘められた葛藤とか、そういう諸々をひっくるめた上での「良い」なのよ。わかるかな。


 ちなみに生きている人間じゃない。漫画(およびそれを原作とするアニメ)のキャラだ。

 いやまあ、生きてるけどね。私の中ではそれはもうイキイキと生きてるけどね。

 ……でも原作的には最新刊の一個手前で死……いや死んでないからまだ確定したわけじゃないから。もしかしたらあの後復活するかもしれないじゃん。死んでないって! 本当だって!!! 二次創作だけの話じゃないって!!!!


 ……そう。

 私には推しがいる。

 大好きで大好きで、漫画も全巻揃えたしアニメも全部録画して円盤も買ったし、グッズも買った。


 だけど、そんな推しは死んだ。

 普段は素っ気ないけど、仲間を誰より大切に思ってるのは知っていた。自分が身を呈して仲間の盾になって、それで彼が満足できたなら、幸せな死だったんじゃないかなと思う。

 演出も大ゴマだったし、めちゃくちゃオイシイ出番だったのもわかる。アニメでこのエピソードが放映されたら、きっと二次創作の数も爆発的に増えるはずだ。それくらいには胸を揺さぶる展開だった。


 でも……そうだったとしても、

 つらいものはつらいし、推しがもう死んでしまったことを思うと心が締め付けられるし、漫画を追いかけながら「ああ……彼はもう死んじゃったんだな……」って思うと無理しんどい助けて心がつらい。


 気付けば、週刊誌の発売日当日に雑誌を舐め回すように読みふけることもなくなってしまった。

 当然、彼が必死で守った仲間の行く末を見届けたい気持ちはある。いつかは克服して、彼の遺志が引き継がれていくのをしっかりと目に焼き付けたいとは思っている。この作者さんなら、しっかりと描き切ってくれるはずだし。


 ……でも、つらいよ。

 最新刊ではもう、どのコマを探しても彼はいない。

 回想では出てくるけれど、生きている彼は、もう……


 沈んでいると、メッセージアプリの通知が鳴る。

 サッと確認すると、「今週の本誌見ろ」との言葉。


「今はそれだけしか言えない」


 短いメッセージだけど、同じ作品を愛する仲間からの言葉だ。

 特に、彼女からの言葉なら信じられる。推しキャラは違うけど、彼女の解釈はいつも、下手をすれば同担より一致している。


 今すぐコンビニに駆け込もうとも思ったけれど、その暇さえ惜しく、漫画アプリを開く。更新されていた最新話をタップして、課金済みのポイントで購入。

 一呼吸おいて、画面を横にスワイプした。


 ……はい?


 はぁぁぁぁぁあ!?!!?!?!? やっぱり生きてたんじゃん諦めなくて良かった……!!!!!

 てかボロボロになりつつもずっと仲間のこと考えてるの最高かよ尊い無理しんどい助けて心がつらい。そのくせ再会の時に悪態ついてんの可愛いかよ????? 天使か??????


 はー…………後で本誌買おう…………3つぐらい買おう…………。

 やっぱ私の推し、最高……ッッッ!!!!!!!

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異なる次元にて愛を叫ぶ 譚月遊生季 @under_moon

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