第3話

――都内のとある大学の学食にて




「うわーやっぱ席もう空いてないね」


「ほんまやね。どないする? 少し歩くけど別の学食まで移動せぇへん?」


「どこいってももう空いてないかもね、はぁ」




時刻は12時30分、とある大学の学食には学生が溢れかえっていた。2限の講義が終わり昼飯時だから当然なのだがここまで多いといくら広大な学食といえど席は全部埋まってしまうだろう。そんな場所の入り口で二人の少女は立ち往生していたが、ここにいても仕方がないと別の場所へ移動しようとする。しかし、ふとある光景を目にして少女たちは足を止める。




「あれ、なんであそこだけ人がいないんだろう」




丁度学食の真ん中にあるテーブルだけは誰も座ろうとしていなかった。まるでそこは存在しないかのようにぽつんと席が空いていた。そこに一人の男が座っているが、何の変哲もない普通の黒髪の男だ。




「ねぇ、あそこみて!」


「ん? どないしてん急に…あっ、あそこ開いてるやん! とられる前にいこ!」


「うん!」




2人の少女は急いでテーブルへと向かった。テーブルにたどり着くと黒髪の男は二人に気がついたように目を向ける。どうやらコーヒーを飲みながらスマホをいじっていたようだ。




「あの~、すみません同席いいですか?」




黒髪の男はそう話しかけられると、満面の笑顔でこう言った。






「どうぞどうぞ! いや~、君らのような美少女と同席できるなんてついてるわ~! じゃんじゃん座って、前の席じゃなくて隣でよろしく!!」








―――――


「それで二人はどういう関係なんだっけ?」


「はい? いきなりどうしたんですか変t…先輩」


「なんや? ナンパ男」


「あれ!? なんか冷たくない!?」




マスターの美味しいコーヒーをゆっくり楽しめなかった俺はとりあえず自分が所属する大学へと足を運んだ。そのまま行けば1限の講義にも間に合っただろうに実際に着いたのは12時すぎであった。道行く女性をナンパしていたためである。後悔はしていない。




勉強は午後から頑張ればいいと考えた俺は、学食へと向かった。あそこは混むが美味しいコーヒーを出してくれるのでお気に入りの場所である。まだ、講義中の為か人はまばらでありいつもの席に座ることができたため後から来るであろう友人たちをゆっくりと待つことにした。




待つことにしたのだが、今日は珍しくそこへ可愛らしい二人の来客があった。一人は茶髪のロングの髪の毛先をウェーブさせた如何にも今風の女性、椎名かざりちゃん。もう一人は黒髪のショートというシンプルな髪型であるが逆にその容姿の良さを際立させている女性、白雪糸ちゃん。どちらも美少女と言って差し支えない。テンションがあがってしまったのは仕方のない事だろう。




「自分の言動を省みてください。 …ナンパは慣れていますけどあそこまで初対面の人に情熱的に言い寄られたのは初めてでした」


「自分、イケメンやなかったら逮捕やな」


「素敵な女性が目の前に現れたんだから仕方ないと思うけどなぁ」




男として当然の行動をしたまでだ。うん。しかしほんとに…


ふと、かざりちゃんの茶髪の頭に手を載せてしまう。




「頑張ったんだね、うんうんすごく可愛いよ」


「っ/// や、やめてください先輩…」




彼女の容姿は優れている。もちろん天性のものということもあるかもしれないが、そこには努力の影が見え隠れしていた。そういう努力をしてきた自分には余計にそのことがよくわかった。努力していることがバレたと気づいて恥ずかしくなってしまったのか彼女は俺の手から逃げるようにして糸ちゃんの片腕に縋りつく。




「いとぉ~」


「……セクハラはそれくらいにしいや自分」


「あぁ、ごめんごめん」


「ほんまにわかってるんか」


「うんうん糸ちゃんも可愛いよ」


「はぁ、それはおおきに」




胡散臭そうにため息をついた黒髪の彼女は隣でうーうー唸っているかざりを宥めると、目の前のコーヒーカップを手に取り口につける。




「いや、それ俺のコーヒーなんだけど」


「ええやん、美少女の唾液入りコーヒーやで」


「いくらでも飲んでいいよ」


「筋金入りやな…」




そのままコーヒーを飲みきると彼女は立ち上がりどこかへ行こうとする。




「ほな、次の講義あるからいくわ」


「え、ちょっと待って私を置いていくつもり!?」


「かざりは次の時間空きコマやろ」


「でも~、先輩とふたりっきりになっちゃうんだけど!」




かざりは駄々をこねるが、黒髪の彼女は問答無用で歩き出してしまう。




「大丈夫や、いくら性欲しかない変態でもこんな公衆の面前で露出する趣味はないはずや」


「そうかもしれないけど~」


「君たち一応初対面だよね? ひどくない?」




いつから初対面の人に足蹴にされるような人間になってしまったんだろうか。




「それに」




彼女は一瞬足を止めて振り返り、何故か俺に向かって笑顔を浮かべながら




「すぐ賑やかになるんやろ?」




そんなことを言い残し立ち去ってしまったのだった。

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