第41話 《月子》 会いにきて





「こういう立ち位置で生まれ変わって、何にも後悔してない。大塔宮様には勝てないって、何度も思い知っているから」



700年前も、そして700年経った今日も、思い知らされている。


たぶん、この先もずっと、思い知らされる。



だからこの姿もこの立ち位置もあたしにとっては戒めに近い。



「安心して。――あたしはもう、前に進んでる」



あいつはあたしだけど、今の人生を生きているのは“あたし”。


あいつだった頃の思い出は、きっとそのうち朧になる。


完全に消えることはなくても、節目節目にしか思い出さなくなる。


それが寂しいわけじゃない。



だってもう、あたしは、あたしの人生を、生きている。


桜井月子の人生を――生きている。



「ただ、大和のことだけは、ずっと追っていく。それが今のあたしが大和にできる唯一のことだから」



700年前、大和と会った最後の日のことも、思い出した。


大和があいつに言った言葉も、敵同士だったけれど積み重ねた思い出も、忘れていいものじゃない。


全部宝物。



「あたしが――あいつが消えてから、大和がどんな風に生きていたか、あたしは知りたいから」



双子の片割れだし、あたしには知る権利があると思う。



「……そうだな。大和のことはそなたが一番よく知っているだろう」



うん、と頷く。


700年前も、700年後も、あたしが一番大和のことを知っている。



「……ありがとう。大和とあたしの時を繋げてくれて」



二度も、700年の時を越えさせてくれた。


本当に感謝している。


大塔宮様は、あたしに向かって深く微笑む。



「代わりに頼みたいことがある」


「え?」



「……千鶴子と子を頼む」




大塔宮様がそっと目線を下に向けると、座った大塔宮様の足元に寄りかかるように、着物を着たちづ姉が座り込んでいた。




「うん。大丈夫。必ず助ける」




頷いて断言したあたしに、大塔宮様はほっと息を吐いたように見えた。




「……もう終わりにしたい」





そんな言葉が聞こえて、目を向けると大塔宮様が口を開く。




「待つのはもう終わりにしたい」





700年、待ったこと、もう終わりに。


その言葉に胸が震える。


うん、と頷く。



「あたしも、不毛な輪廻はもうこりごりだよ」




700年前から今日まで、何度も輪廻を繰り返したけれど、もうこれで終わりにしたい。



ここでもう、終わりにしたい。




悲しむのは、苦しむのは、もう終わりにしたい。




ちづ姉にも大和にも、そして大塔宮様にも会えずに終わる一生は、もう十分。


また会えなかった、と嘆いて死を迎えるのは、もう嫌だ。




「――だから、必ず会いにきて」





ちづ姉に、あたしに、会いに来て。



こんな形ではなく、生身の体を持って、もう一度一緒に笑い合えるように、会いに来てほしい。




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