第40話 《月子》 約束の片割れ
「ちづ姉っっ!!」
どこ?
一体どこにいるの?
絶対にここにいると確信しているのに見つけられない。
あれ? 太一兄ちゃんは?
足音があたしのものしか聞こえなくなって、不安になる。
振り返ろうとした時、瞳の端に、銀が、走る。
いつか見たように、灰白の、美しい光が――。
「――待っていた」
その声に、体が動かなくなって立ちすくむ。
山の中の鳥居を越えた先、深い木々の合間にある大きな石碑に腰かけるようにして、銀が瞬いている。
現れたあたしにいつかのように微笑みかけて、そうして何にも恨んでいないとでもいうように、あたしをまっすぐに見ている。
「ごめんなさい……」
気づけば、涙と共に、そんな言葉があたしから落ちる。
「なぜ謝る」
「だって、あたし……」
貴方を助けに行かなかった。
囚われている貴方に対して、何もできなかった。
もしかしたら、何かできたかもしれない。
でもそうしなかった。
現代のような通信手段がなかったから……、なんてそれも言い訳だ。
気づかなかったわけじゃない。
あたしは結局貴方を見殺しにしたも同然。
あんなにも好きだったのに、
自分の恋心を優先して、貴方を随分困らせた。
自覚したら、後悔が止まらない。
“あたし”の感情じゃない。
“あいつ”の感情。
でも、あいつはあたしだから、あたし自身の――後悔。
「本当に、ごめんなさい……!」
もう一度心から謝る。
すると、静かにあたしの前に誰かが立つ。
「――何も悪い事はしていない。お互い、思う通りに生きた。それだけだ」
「そんな……」
「己の信念に従って、まっすぐに走って行っただけだ。それが最終的にぶつかりあうことになったとしても、何にも負い目に思うことはない」
ぐっと、唇を噛みしめる。
急激に気持ちが昂る。
そうしないと大声で泣き崩れてしまいそうだったから。
「――ただ、千鶴子は渡せない。真白、そなたにも」
真白、と呼ばれて、胸が詰まる。
切なさばかりが湧き上がって、苦しくて堪らなくなる。
止めた息を吸った時に、体の強張りが取れる。
でもようやく楽になった。
名前を呼ばれてようやく、何もかも受け入れられた。
「……そんなこと、わかってるよ。だから今、この体を選んだんだよ?」
もう二度と、切ない恋をしないように。
ちづ姉に、恋をしてしまわないように。
あたしはあたしの意志で、女として、しかも妹として生まれ変わっている。
だって、比翼連理の片割れは、あたしじゃないとわかっている。
何度生まれ変わっても結ばれる約束はあたしじゃない。
貴方だって、わかっているから。
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