第34話 《月子》 必要な人


ふと、あの神社での出来事が頭をよぎる。


その時かけられた、あの言葉。

意味がよくわからなかったけれど、全部納得がいった。


大和の隣りのその姿を見たら、全部理解した。


しばらくそいつと見つめ合っていたけれど、ふっと笑って口を開く。



「――今でも護ってくれているのだなって、言葉の意味、わかった」




なんだ、そういうことだったのか。


「え?」


突然呟いたあたしに、大和が戸惑ったように首を傾げる。



「実はね、鎌倉の白い鳥居の神社で会ったの。その――護良親王に」



数年前の鎌倉。


前に一度、700年前にいる大和と携帯で話すことができたのも、その時のあの人おかげ。



ふふっと笑うと、大和は呆然と私を見ていた。


でもすぐに大きく目を見張る。


「もしかして、以前一度月子と話せたのは……!!!」


「うん。あの人が、大和との間の時を、繋げてくれた」



全部あの人のおかげ。


カミサマとしてのあの人が、あたしと大和の間に横たわる、700年の時を越えさせてくれた。


大和は全部謎が解けたと言わんばかりに、呆然としている。


あたしは大和から目を離し、大和の傍に立つその男に目を向ける。



「大和の傍に、いるんだね」



どんな関係なのかはわからない。

歴史書に書かれていることなんて、人生の内のほんの少しのことだ。


大和との距離感から、いがみ合っているようには見えない。


大和を心配そうに見ているそいつに、大和を恨んでいたり嫌っていたりするような雰囲気はまったくしない。



――前世のあたしも、大和に寄り添っている。



そういうことを感じたら、どうしようもなく嬉しくなった。


傍にいるんだ、というあたしの言葉を聞いて、そいつはこくりと頷いた。



「じゃあ、寂しくない」




あんたが前世のあたしだとしたら、寂しくない。


今も、傍にいる。


現代を生きるあたしではなく、何百年も昔のあたしが、今も大和の傍にいる。


それは紛れもない真実。


寂しくない、とあたしが言った途端、大和は両手で口元を塞いで、嗚咽を堪えている。



「……大和も、そいつがいるから寂しくないんだね?」



ぼろぼろと散る涙が、大和の手を滑って落ちていく。


小さく漏れる嗚咽を押し込めて、大和はこくりと頷いた。



「そう。そいつが――【あたし】が大和の傍にいるんだったら、あたしも寂しくない」




そいつは大和のことを心配そうに窺っている。


現代に帰ってほしくないと思っていると、その表情から伝わってくる。


それほど大和のことを求めていて、大事にしていると理解する。




やっぱり『あたし』には、大和が必要なんだ。


現代でも、お母さんのお腹の中にいる時でも、何百年も前でも、いつでも大和を求めている。


大和の傍に『あたし』がいるのがわかったから、悲しいけれど700年前の時代に残る大和を受け入れることができるかもしれない。




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