第33話 《月子》 邂逅


大和はあたしをじっと見つめて、目を逸らすことはない。



「俺は700年前のこの時代で、大事なものを一杯見つけた。護りたいもの、沢山手にしてる。俺はここで、この時代で生きたい」


その言葉に、思わず瞼を伏せる。

パタパタ音を立てて、涙が一気に落下する。


「本当にごめん。でも、月子が大好きだってことは変わらない。永遠に、ずっと……変わらない」



ズルいよ、大和。

謝ったあとに好きだなんて、ズルい。


あたしのこと、大好きだって言うくせに、二度と会えないことを受け入れているの?


大和はいつもそう。

大事なこと一人で決めてしまう。


大好きなんて、当たり前だよ。

あたしだって、大和が大好き。


あたしの大事な大事な双子の弟。


だからこそ、大和を諦めきれないのに。



「大和……なに、言ってるの? 嫌だよ……帰ってきてよ……」



現実を受け入れられなくて、抗う。

どうしても、わかった、なんて言えない。


言ったらもう、あたしや家族がいつか必ず帰ってきてくれるはず、と願い続けたことも、全部終わってしまいそうだったから。



「……月子を一人にして、ごめん。けれど何を言われたって、恨まれたって、俺はここで生きる」



そんなの許さない、と言おうと反射的に口を開く。


思い直してほしくて、

もう一度会いたくて、どうしても、傍にいてほしくて、さらに抗おうとした時、鏡に誰かの影が映る。


そうしてその影が、あたしを見て、驚いたように目を見張った。



「誰……?」




鏡の向こうでぼそりと呟いて、あたしをまっすぐに見つめてくる。


あたしも引き込まれるように、その両目をじっと見つめる。



「誰、あんた」




思わず尋ねるけれど、ほんの少し鏡の向こうの男が眉を顰めたのを見て、確信する。

あたしが口を開くのと同時に、その男も口を開く。



「……俺」

「……あたし」




ああ、そうだ。



あたし、だ。


誰でもなく、あたし。



もちろん性別は違うし、今のあたしとはあまり似ていないけれど、気づく。



この男は、、だ。



ちづ姉に――、雛鶴姫に恋をしていた頃の、姿。


大塔宮様が大好きだったのに、自分の気持ちを抑えることができなくて、苦しくてたまらなかったあの頃の、あたし。


そんな過去の自分が大和の傍にいることを知ったら、わっと感情が昂る。


嬉しいのか、悲しいのか、わからない。

不思議な感情に心を支配されて、ただ苦しい。


胸が張り裂けそう。


何も言えなくなって、そのまま黙り込む。

鏡の向こうのあたしも、唇を引き結んだ。


ただぽろりと涙があたしの頬を滑り落ちていくのを、鏡の向こうの自分は呆然としながら目で追っていた。


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