第31話 《月子》 白昼夢
則祐が兵庫に帰ったあと、しばらくして夏休みが終わった。
課題を出して、ひと段落できると思っていたけれど、トモはここ最近ずっと図書館の本を読み漁っている。
あたしの家にある本はどうも読みつくしたみたいだ。
トモはがむしゃらに、“あいつ”の影を追って、突っ走っている。
まるでその姿は、ようやく見つけた唯一のものを、もう逃さないとでも言うようだった。
そんなトモを見るのが辛くて、ここ最近理由をつけてトモを避けている。
あたしのそんな些細な変化なんてどうでもいいと言いたげに、トモはあたしが避けることを疑問にも思わないようだ。
少し前のトモなら考えられないようなこと。
――つまり今のトモは、あたしよりも、“あいつ”を追っている。
あたしが引き起こしたことなのに、酷く後悔している。
こんな状態、あたしは嫌なのに、もう止められない。
秋が来て、色づき始めた木々の中を、言葉にならない寂しさを抱えながら一人で歩いて行く。
踏みしめた落ち葉は簡単に崩壊する。
足の下で感じる音と感触をぼんやりと感じながら、家路につく。
家に帰って、もやもやしてやりきれない気持ちを抱えながらベッドに突っ伏す。
胸の上に手を置いてみても、じわりと熱が広がらない。
辛いとき、悲しいとき、寂しいとき、あたしは胸の上に手を置く。
そうすると、なぜか大和に熱が伝播して伝わるのだ。
それは逆も同じで、大和が胸の上に手を置くと、あたしの胸の上がじわりと熱くなる。
触れていないのに、急に熱を持つ。
それが双子として生まれたあたしたちの不思議な力。
それなのに、まだ冷たい。
700年の時の隔たりのせいで、伝わらないのかな。
大和。
寂しいよ。傍にいてほしい。
もう一度、一緒に眠りたい。
優しい大和に、甘えたい。
そんな風に何度も何度も願っても、大和は戻ってくることはない。
4年も経つけれど、あたしは一人だ。
大和はあたしの半分なのに。
――寂しい。助けて、大和。
強くそう思った時、きらりとテーブルの上に置いてあった鏡が反射する。
窓から光が差し込んでいるみたいだったけれど、さらに何度も瞬くように煌めいている。
一体どうして光が差し込んでいるのかわからず、顔を上げる。
鏡の向きを変えようとして手を伸ばした時、鏡に映った自分の姿を見て、大きく体が震える。
動揺しているのが自分でもよくわかるほど、衝撃的だった。
白昼夢?
一体これは、夢なのか現実なのか、それすらよくわからない。
そんな単純なことすら理解できないほど、目の前のことを簡単に受け入れられない。
「……ごめん、月子」
そんな声が、鏡の向こうから響いた。
聞き慣れた、愛おしい声を聞いて、わっと涙が散ってぼたぼた落ちていく。
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