第22話 《月子》 計画
「――こんにちは!」
聞き覚えのある声が響いて玄関に向かうと、思ったとおり則祐の姿があった。
「上がって、則祐」
出したスリッパを履いて、則祐は家に上がる。
「もう9月なのに、まだまだ暑いな。東京の夏は堪らないよ」
「兵庫も変わらないでしょ」
リビングで則祐の前に麦茶を出した時に、ドアが開いた。
「あ、こんにちは。則祐さん」
「久しぶり、頼人くん。元気だった?」
「はい。そこそこ。んじゃ俺、部活なんで」
「頼人、忘れ物ない?」
弁当箱を掴んで出て行こうとする頼人の背に向かって声を掛けるけれど、頼人は「ない」と素っ気なく吐き捨てて出て行ってしまった。
今日は日曜で学校は休みだけど部活があるそうだ。
一体何時に帰ってくるか聞きたかったのに。
「頼人くん、もう中学生だっけ?」
則祐が苦笑しながら、ドアを見つめているあたしに声を掛ける。
「そう。あいつ反抗期なのか、最近腹立つんだよね」
「お前だって反抗期あっただろ。って、月子は万年反抗期だな」
「ちょっと則祐! あたしはもう反抗期終わったよ」
声を荒げると、則祐が朗らかに笑う。
そういう姿を見ると、何となく懐かしい気分になる。
高校時代を懐かしんで、とかじゃなく、もっともっと遠くの世界が懐かしくなる。
そういう感情がどこから来るか知らない。
知ったって、きっと、さらに辛くなるだけだ。
「お、久しぶり! 則祐くん」
突然そんな声が掛かって振り向くと、寝起き姿の太一兄ちゃんが眠気眼で立っていた。
「お久しぶりです。お邪魔してます」
「君たち早いね~。いいね、若いって」
ぼさぼさの髪をかき上げながら、太一兄ちゃんは大あくびをする。
お客が来ている時くらいしっかりしてよ、と言ったところで、太一兄ちゃんは人目なんて一切気にしない。
マイペースでずぼら。
いつも飄々としているくせに、何か困ったことが起こると一番頼りになるから不思議。
「早いって言っても、もう10時近いよ。太一兄ちゃんが遅いんだって。今日会社休みでいいんだよね?」
父さんが朝出て行ったあと、太一兄ちゃんを起こしたら「休みだから二度寝する」と言っていたけれど、かなり寝ぼけていた。
「休み休み。休みの日なら10時に起きるのは早いくらいだよ。んで、則祐くんはいつこっちきたの?」
「昨日ですよ。新幹線で夕方くらいに着きました。それで月子とばあちゃんの家でご飯食べて――」
「月子も一緒にねえ。本当に仲いいね、二人とも」
太一兄ちゃんはにやにや笑いながらテーブルに着く。
茶化すような笑みに、苛立ちが生まれる。
でもいちいち太一兄ちゃんの相手をしていると、きりがない。
話している二人を横目に、太一兄ちゃんの朝食を準備する。
もう少し早く起きてくれれば、あたしや父さんたちと食事を済ませることができたのに。
適当にトーストとサラダを差し出すと、太一兄ちゃんは受け取って頬張り始めた。
「今日はこれから二人はどうするの? 則祐くんが来てくれたってことは、どっか出かけるの?」
今日はこれから――。
ふいに目を向けると、則祐はあたしを見ていた。
目が合って、弾かれたように太一兄ちゃんに向かって口を開く。
「することないし暇だから、則祐と鎌倉に行こうかって言っていて……」
鎌倉。
そう言った途端、ピリッと空気が張り詰める。
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