第21話 《月子》 家族






「則祐くん、東京に来ているって?」



父さんが、トーストにバターを塗りながら尋ねてきた。



「うん。昨日の夕方ごろにきたよ。今日うちに来るって言ってたけど」



昨日則祐を迎えに行ったあと、則祐のおばあちゃんちに行った。


三人でおばあちゃんの作ってくれた夕食を食べて、夜遅くまで一緒に過ごした。


夜更かししても、朝起きる時間は同じ。毎朝、5時。


だからものすごく眠い。

今も勝手に瞼が降りてくる。



ちづ姉がいなくなってから、4年。




ちづ姉がやってくれていた家のことは、今はあたしが代わりに一手に引き受けている。


初めは料理や洗濯、掃除……家事なんて一切できなかったのに、必要に迫られたせいで、今では何でもできるようになった。


今日は眠かったせいでトーストにしちゃったけれど、いつもはしっかり全員の分の朝ごはんを作っている。


洗濯もするし、掃除もする。


もしかしたらちづ姉よりも、うまくなったのかもしれない。



ちづ姉に見てほしいなあ。



あたしがどれだけできるようになったか、どれだけ大人になったか、見てほしい。



そうして誉めてほしいと願うのは、贅沢かな。



大和の言うとおり、700年前の世界にいるのだとしたら、宝くじを当てるよりも、不老不死の願いを叶えるよりも、あたしの願いを叶えることは難しいことなのかも。



なみなみ注いだコーヒーを父さんの前に置いて、あたしもテーブルに着く。



「――そうか。則祐くんが来たら、よろしく伝えておいてくれ。早く帰れたら帰ってくるが、どうなるかわからない」



父さんは史学科の大学教授だ。


今は大学は夏休みだけれど、そろそろ授業が始まりそうだから、いろいろと事務仕事で朝から晩まで忙しいみたいだ。


あたしが通っている大学とは違う大学だけれど、父さんから学ぶことは山ほどある。



「うん、わかったよ。早く帰ってこれたらいいんだけど」


「なるべく早く帰るよ。頼人と夕をよろしくな。太一は……」


「太一兄ちゃんは、適当に起こして会社に送り出しておく」


「頼んだぞ。いつもありがとう、月子」


うん、と頷く。


家族の世話をするのも、もう慣れた。


もちろんはじめは反発していたけれど、ちづ姉と大和が消えて、自分も不安だったから、家族に寄りかかる時間が増えた。


そうしていたら、自然と家族が一番大事と思えるようになった。


単純に、反抗期が終わったからなのかもしれないけれど、あたしは4年前より断然丸くなったと自分でも思う。


2人を失って、残った5人の結束が強くなった。でもあたしの反抗期が終わりを告げた頃に、代わりに頼人の反抗期が始まったんだけど。


「じゃあ行ってくるからな」


「うん、気をつけて」


軽く手を振ると、父さんは頷いて鞄を手に持って立ち上がる。


さて、食器を片付けたら皆を起こしに行かないと。


その後は、朝食を食べさせて、則祐が来る前に掃除して、買い出しにスーパーに行って……。


やることは、山積みだ。


あたしは食べかけのトーストを一気に頬張った。



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