第20話 《月子》 二人がいい




「今日はもうおばあちゃんちに行く?」


「そうだな。荷物あるし、新幹線疲れたからそうするよ」



則祐のおばあちゃんは東京に住んでいて、則祐が東京の高校に通っている間、二人で暮らしていた。


あたしも高校時代、おばあちゃんの家によく遊びに行ったし、則祐が兵庫に帰ってしまってからも、時折遊びに行かせてもらっている。


今日も則祐が来るからとご馳走を用意してくれているみたい。


「月子ちゃんも一緒に夕飯を食べましょう」、と誘ってくれて、二つ返事で「行く!」と言った。


だって、則祐のおばあちゃんのごはん、すごくおいしいし、楽しみ。


足取りも軽く歩いていると、則祐が「ご機嫌だな」と言って笑う。



「――俺、免許取りに教習所通い始めたんだよ。次にこっちにくる時は、車で来る」


「それこそ疲れるんじゃないの?」


「まあでも運転するの楽しい。遠くにも行けるしな。一緒にどこか行こう」



その言葉に、嬉しくなる。


「うん」と、笑顔のまま大きく頷く。



いろんな所に行けるのは、楽しい。



兵庫と東京は遠いけれど、新幹線でも車でもすぐだ。


何日も、何十日も掛けて辿り着くなんて、遠い昔のこと。



そんなことを考えて、少し笑う。


時折あたし、比較対象がものすごく古くなる。


江戸時代じゃあるまいし、何日も、何十日も掛けて、なんて、現代のものさしじゃ考えられないのに。



「そういえば、月子のは?」



問われて、一気に自分の顔が苦い顔になる。


ギロリと睨みつけると、則祐は意地悪く笑っていた。



「……トモのこと?」


「ああ、そいつ。今日はいないの?」



見ればわかるのに、時折則祐は意地悪だ。



「いないよ。呼ぶわけないじゃん」


「そうか? この間、ゴールデンウィークにこっち来た時、お前からぴったりくっついて離れなかったくせに」



肘で小突かれて、さらにムッとする。



「あいつはねえ、あたしのストーカーなの! 行くとこずっとついてきて、迷惑被ってるんだから!」


「ははっ! そうだったなあ。この間は大変な目にあったからな」



数か月前に則祐が突然東京に来た時に、絶対に来ないでと言ったのに、トモがわざわざついてきたんだった。


則祐が電話をくれた時、ちょうどゴールデンウィークの一日前であたしは大学にいて、トモと一緒だった。


絶対に来るなと何度も言った。


それなのについてきた挙句、帰れと言ってるのに、トモは口が達者だからあの手この手で則祐を丸めこんで、常にあたしと則祐にべったりとはりついて行動していた。



前回の教訓を生かして、トモには今日則祐と会っていることは伝えていない。


無論、則祐が東京に来ていることもあいつは知らない。



「……まあ、悪いヤツじゃないんだけどね」



いいヤツでもないけど。



「そうだな。帰る数日前になったら、会うかな」


「そうして。あたしは則祐と二人がいいから、それがいいよ」



そうは言っても、三日に一度はあたしの家に来るから、則祐が帰る前にどこかで会いそうな予感がする。


眉を顰めていると、則祐はあたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。


その仕草に眉間の皺が取れ、気づけば笑顔になっていた。


安心感。


則祐と一緒にいると、そういうものを強く感じる。


あたしは笑顔のまま、則祐と一緒に駅を出た。




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