第19話 《月子》 再会
「――月子!」
呼ばれて顔を上げると、懐かしい顔がそこにあった。
思わず泣き出しそうになりながら、寄りかかっていた柱から体を離す。
あたしが駆け寄る前に、声の主は新幹線の改札を抜けて傍まで来ていた。
「久しぶりだな! 元気してたか?」
「うん。してたよ。則祐は?」
「俺はいつも通り、毎日過ごしてるよ」
他愛のないことを話しながら、人波に乗りながら肩を並べて歩き出す。
則祐は高校の時にスポーツ推薦で兵庫から東京に来ていて、あたしと同じ高校に通っていた。
たまたまクラスが一緒になってから、とても仲がいい。
初めて教室で則祐を見た時も、今日も、不思議と泣き出したくなるような感情を覚える。
何故かと問われても、あたしにもよくわからない。
ただわかるのは、則祐はあたしのことをよく知っていて、あたしも則祐のことをよく知っていることだけ。
説明するのが難しいけれど、それは情報として知っているのではなく、もっと心の奥底、魂を知っているような感覚だ。
大和がいなくなってぽっかり空いた穴を、高校三年間、則祐が埋めてくれた。
あの時、則祐に出会えなかったら、あたしもっとやさぐれていたんだろうなあと簡単に想像がつく。
きっと今も悲しみに呑まれて、もしかしたら自分の部屋から一歩も外に出ることができなかったかもしれない。
だから則祐には本当に感謝している。
その後、あたしたちは高校を卒業して、則祐は兵庫に戻った。
今は、兵庫の大学に通っている。
何となくそうするだろうなと薄々感づいていたし、どこか覚悟はできていたけれど、やっぱり寂しかった。
大泣きしたあたしの傍から離れずに、ずーっと傍にいてくれたのはすごくいい思い出。
「……今回はどれくらい東京にいるの?」
尋ねると、則祐ははにかむように笑う。
「よくわからないけど、とりあえず一週間」
「何そのとりあえずって」
「何となく。早く帰ると、月子が寂しがると思ったから。まあ夏休みはあと数週間あるからな。のんびり滞在して、のんびり帰るよ」
本当に則祐はあたしのこと、よく知っている。
いつ帰る、と断言すると、その日が近づくにつれ、徐々に落ち込んでいくのをわかっている。
少し恥ずかしくなって俯くと、頭上から則祐が屈託なく笑う声が響いてくる。
「あたしが寂しがったって、兵庫に戻るくせに」
唇を尖らせて抗うと、則祐はあたしの頭を軽く撫でる。
それ以上何も言わなかったけれど、その仕草が、そうだ、と言っているようで切なくなる。
則祐とあたしは、どんなに仲が良くても、決して一緒にいることができない運命なんだ。
そういうこと、よくわかっている。
もちろん、あたしと則祐は彼氏彼女でもないし、今までも、そしてこれからも、そういう関係になることはないだろうな。
恋愛感情よりももっと、深いところであたしたちは結びついている。
これがまた厄介で、彼氏彼女になってしまえば楽なのかなと思うこともあるけれど、あたしたちが求めているものはもっと別の形なのだからしょうがない。
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