第15話 《智久》 結婚相手
待ちきれずに、わざわざ門の傍で待っていてくださったのがわかって、どこまでかわいらしい姫君なのかと思う。
「――
「トモちゃんこんにちは。アキちゃんは?」
「牛車の中におりますよ」
牛車に目を向ける。
私の仕草を見た露姫は、それはとてもとても嬉しそうに満面の笑みを見せる。
愛らしい姫君。
牛車から疲れた顔で下りてきた顕家様に、飛びついている。
「アキちゃん!! 会いたかったよー!!」
「5日くらい前にも来ただろ。重いよ、露は」
「着物のせいだよ! 遊ぼう! 何する⁉」
「やだ。疲れてるの、俺は」
「ええーっ、いいでしょー!?」
わいわい騒ぎながら、顕家様と露姫は門をくぐり、屋敷に上がっていく。
それを後ろから微笑んで眺めていた。
顕家様の幼馴染の露姫様。
こちらも貴族の名門、日野家の姫君。
顕家様ももう11。
あと2、3年ほどされたら、ご結婚されるだろう。
顕家様のお父上である親房様は、水面下ですでにお妃選びを進めている。
恐らく、このままなら顕家様と露姫様はご結婚されるだろうと思うけれど、親房様は乗り気ではない。
日野家は今低迷している。
露姫の父君が、何年か前に後醍醐帝の倒幕計画の罪をすべて被って、処刑されたからだ。
でも、それを差し引いても、親房様はお二人をご結婚させるのかもしれない。
女性嫌いで有名な顕家様も、幼いころから分け隔てなく遊んできた露姫だけには心を許しているし、お優しいから。
恐らく、顕家様は露姫以外の女性の前では絶対に心を開くことなどないだろう。
親房様はそれをご存じだから、家の事情は諦めるかもしれない。
元々日野家と北畠家は、同じ後醍醐帝の側近。
親房様も、日野家とはとても懇意にしていた。
低迷する日野家を救うという名目で、お二人の結婚を整えられるかもしれない。
どうせ他の姫君と無理やり結婚までの道筋を整えたとしても、顕家様が拒否して終わると親房様もわかっている。
それならもう、という打算めいたものでも整うかもしれない。
お傍で見ていて、親房様は顕家様の英俊さに最近ではやり込められることも多い。
顕家に何を言っても無駄だ、と愚痴をおっしゃっているのも聞いたことがある。
露姫は顕家様の腕にしがみつくようにしながら、楽しそうに縁を歩いていく。
顕家様は露姫に向かって悪態を吐きつつも、露姫様を遠ざけようとしない。
恐らく顕家様も露姫なら、と思っているのかもしれない。
無論私もお二人のご結婚には、何の不満も反対もない。
露姫の家柄も、そして周囲を明るくさせてくれる性格も、愛らしい容姿も、顕家様に申し分ない。
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