三月六日・二日目

 さてさて、初日はお弁当とは名ばかりの残り物持参だったが、二日目は比較的お弁当らしいものにしようと思った。

 取り敢えず何にしようかと考えて、最初に思いついたのがゴーヤチャンプル───この数年、食べたい・食べたいとは思っていたが、豚肉&卵&豆腐が入る一品は、タンパク質と塩分の食事制限が入っている父親のおかずには出せない。加えて、ゴーヤを含む苦味系野菜やセロリに代表される香味野菜系が駄目な弟も居て、ゴーヤを使う料理はかなりの禁じ手とされているのが現状だ。

 全く、食事制限が入った一人と好き嫌いが多い二人(つまり私を除く家族全員)が居ると、出せる料理のレパートリーが異常なまで減るものだ。糖尿病・高血圧・慢性腎炎を持つ父は出せば何でも食べるが、食べる量そのものが多く、紛うことなく酒豪だ。母は、好き嫌いが多く、肉や魚類と芋類が異常に好きだときた。正確には、ジャガイモ・サツマイモ・里芋・カボチャとトウモロコシを偏愛している。つまり、準穀類───糖質の仲間だ。この時点で、夫の食事管理に関して、専業主婦の妻の責任を感じずにはいられない。高血圧気味で肝機能に微妙な数値がみられる弟に至っては、本当に食べられないのはセロリとブルーベリーで、他は食わず嫌いだと公言しているのだから、全く以って論外である。出された物は黙って食え。そんな食生活をしているから、積もり積もって病気予備軍を抱える羽目になるんだよっ!───と私は主張したい。


 まあ、そんなわけで、家族の食事制限に付き合っている私は、ゴーヤチャンプルに飢えていた。そのおかずであれば、一段にご飯を詰め、二段目にゴーヤチャンプルを詰めれば事は済むと考えたのである。そして、ルンルン気分でスーパーに寄ったのだ。

 だがしかし、今は三月───ゴーヤの季節ではない……。

 ただでさえ、値上げが続くこの春だ。一応、ゴーヤがあるにはあったが、手に取るのも憚られるほど高かった。敢え無く、瞬殺で断念。代わりに、以前から興味があったものを手に取ることにした。

 『弁当持参』がブームになっているこの数年、『自然解凍惣菜』が度々メディアに登場していたのだ。野菜系おかずを入れるのが難しいお弁当で、あと一品欲しい時のお役立ち冷凍食品である。久しく足を踏み入れていない冷凍食品売り場に行くと、ちゃんと御鎮座ましましておられた。六種類入って消費税込み一五〇円ほど───数日に渡って使えるならば、これはお得かもしれない。

 好奇心が満たされるその御惣菜セットを嬉々として手に取り、ゴーヤチャンプルを目指していた為に手にした豚バラ肉と共に帰宅した次第である。


 さてさて、帰宅後、夕食を食べながら考えてみた。

 初日は、ビーフシチューの残りとご飯だったので、カレーかハヤシライスのノリで、一段目にビーフシチュー・二段目にご飯を詰めて行った。しかし、いざ普通にお弁当を詰めるとなると、量の加減が判らない。何しろ、今流行りの二段お弁当箱を使用するのは、初めての経験だからだ。

 購入してから、まず洗ってみた時には、「自分用には、少し大きいかな?」と思ったが、ビーフシチューを持って行った感じではさほどでもなかった。だが、いざ普通のお弁当となると、一段にご飯を詰め込んだ場合、食べる量に自信がない私が食べきれるかどうか……?

 考えた末、大量に食べることには自信がないが、足りない場合は気にならない自分の胃の許容量を考慮して、一段目の三分の二ほどにご飯を詰めてみる。当然隙間が空いたので、チーズ入り卵焼きを作ってみた。卵を一個とケチり、とろけるスライスチーズを一枚と欲張った為、作っている最中に内蔵(チーズ)が出てしまったが、無問題モウマンタイ。食べるのは自分なのだ。

 そして二段目には、チャレンジ冷凍食品のお惣菜を二種類と夕食の残りのブロッコリーを一房。豚バラ肉は炒めて、神様の調味料であるエ◎ラ黄☆の味(辛口)で味付けして終わり。

 ふむふむ───粗熱を取る為に並べてみると、それなりにお弁当らしくなっているではないか。ついでに、学生時代に憧れたふりかけを少しだけ掛けておく(我が母は、ふりかけを使わない人なのだ)。

 やってみると意外に簡単だった。特に、自分用は見た目を気にしなくていいところがとても良い。好き嫌いがない自分だから、栄養バランスも考慮している。

 新規購入したお弁当箱の使用注意事項には、『電子レンジにかける時は、すべての蓋を取ってください』とあった。それはいいのだが、ご飯などは、そのままレンチンするとカピカピになるのでは?───と思ったので、軽くサランラップを挟み、粗熱が抜けたところで二段に組み立て、付属の袋に入れてin冷蔵庫。

 翌朝出勤した折に会社の冷蔵庫に入れておき、昼休みで戻って来た時にレンチンするだけ。

 これが意外に悪くない。特に学生時代と違い、冷蔵庫があるので傷む心配がないのがいい。これは続けていけるかも?───と、かなりの好感触だった。


 ただし、この『弁当持参節約計画』を発動するにあたって、自分の中で決めていたルールがある。

 それは、決して無理はしないこと。

 予約の都合や天候不良で忙しくて会社に帰れそうにない時、前日が予想以上に忙しくて限界まで残業を余儀なくされた時には、無理に作ろうとしない。とにかく、ゆる~いルールで実行しなければ続かないのだと、自分の性格上判っていた。


 けれども、夏が来れば、ゴーヤチャンプル祭りをする野望は捨ててはいなかった。

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挙句の果ての弁当ライフ 睦月 葵 @Agh2014-eiY071504

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