24.友達

あれ以来、瓦落多屋での出来事について話すことはない。

お互い意図的に話さないようにしていた。結局私は疑問について何も解決していないわけだが、継兎つぐとは必ず話してくれると言ったのだ。

その言葉まで疑う気はないし、継兎なりに私のことを考えての判断なのだから、それ以上私から言うことなんて何もない。

その話はもうおしまいとなったわけで、またいつも通りの平穏な日々を送っていた。


「ご主人、今日は何を作るんです?」

継兎は作業台の上にいそいそと登り、私の手元を観察する。

「動物モチーフの雑貨を作ります。前作ったのが結構好評で、たくさん売れたんですよね。だからもっと作ろうかと思って」

「すごいじゃないですか!」

継兎は作業台の上でぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。


私が作業台に向かって真剣にものを作るのは、単に趣味だから、という理由だけではない。これが私の仕事だからだ。

ありがたいことに、趣味が高じて仕事となっているわけだ。ただ、私は人と上手く付き合うことが苦手で、接客なんてもってのほかだ。だから信頼出来る人と一緒に店を経営している。

経営するにあたりお互いにいろいろ口出しはするが、主に私が売り物を作成し、もう一人が店での接客対応やら経営面を支えている。そのもう一人というのは私の友達なのだが、面倒くさがりだし、私よりはマシだが人付き合いが得意というわけでもない。そんな人でもあるので、店の経営については駄目元で打診してみたわけだが、話は驚くほどトントン拍子に進み、今は一緒に働いているのだ。

何度も言っている通り私は人付き合いが苦手なのでまともな友達と言えるのもその人しかいない。


「そう言えば、ご主人の作品売っているお店ってどこにあるんですか?」

「ここよりもっと賑わいのある市街地の方ですね」

「じゃあもしかしてお洒落なお店だったりします?」

「市街地にあるからお洒落ってわけではないと思いますけど。でもそうですね、この家よりはお洒落ですね」

言ってから、この家と比べればどんな建物もほとんどお洒落になってしまうのではと

思ったが、あえて言うのは止めた。


「今度一緒に行きましょう!」

継兎は行く気満々である。

興味を持たないわけがないと思ってはいたが、あまりにも予想通りだ。

「まあ、気が向いた時にでも…」

「絶対ですよ!」

長い両腕をバタバタと机に叩きながら言った。木屑が舞い上がるから止めてほしい。


「友達とやってるって言ってましたよね?挨拶もしないと」

「いやいやいや、本気でいらないです」

手土産は何がいいですかねなんて考え込む継兎。本当に挨拶したいらしいが、しなくていい。むしろ会話なんてする気でいたのか。

挨拶とか手土産とか、お前は私の親か。


「今までご主人が誰かとの用事で出掛けることとかなかったので、友達がいることがまず驚きなんですよね」

事実ではあるが、なかなかに酷い物言いである。事実だから言い返せないのだが、自分以外から言われると少なからず凹む。


「なんというか、彼は誰とでも仲良く出来るけど、本当の意味では誰とも友達にはならないって感じなんですよね」


「と言うことは、ご主人はその人のことを友達と思っているけど、その人はご主人のことを友達と思っていな…」

そこまで言って継兎は口を噤んだが、今更遅い。もうほとんど声に出ている。

でもその言いたいことは分かる。

私のさっきの説明を聞いたら、真っ先にそう思うのが普通だ。


「そうですね。友達、なんて思っているのは私の方だけかもしれないですね」


少し笑いながら言えば、その様が自虐的に見えたのか、継兎は口を閉ざしたままだった。実際のところ、彼が私を友達と思っているかどうかは本人に聞いてみないと分からない。相手がどう思っていようが、私は信頼しているし友達だと思っているからそれでいい。

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