24.友達
あれ以来、
結局私は疑問について何も解決していないわけだが、継兎は必ず話してくれると言ったのだ。その言葉まで疑う気はないし、継兎なりに私のことを考えての判断なのだから、それ以上私から言うことなんて何もない。そもそも、継兎がそこまで重要視している問題なら、いっそ知らないままの方がいいのではないかとさえ思うようになってきた。
そんなわけで、その話はもうおしまいとなったわけだ。そしてまたいつも通りの平穏な日々を送っている。
「ご主人、今日は何を作るんです?」
継兎は作業台の上にいそいそと登り、私の手元を観察する。
「動物モチーフの雑貨を作ります。前作ったのが結構好評で、たくさん売れたんですよね。だからもっと作ろうかと思って」
「すごいじゃないですか!」
継兎は作業台の上でぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。私が作業台に向かって真剣にものを作るのは、単に趣味だから、という理由だけではない。これが私の仕事だからだ。有り難いことに、趣味が高じて仕事となっているわけだ。私は特にもの作りに対して譲れない拘りがあるわけでもないので、ジャンルなどには縛られず、自分で売れそうなものをいろいろ作って店頭に並べている。木製の置物を彫ったり、粘土で小さなキャラクターを作ったり、アクセサリーを作ったり、ぬいぐるみを作ったり。そんな感じで、何かに特化しているというわけではない。
つまり、どれも中途半端と言えるのかもしれない。売りに出すからには中途半端なものを並べるわけにはいかないので、もちろん自信作しか出していない。私の作品が中途半端というより、私の肩書きが中途半端なのだ。肩書きとしては作家だと思うが、じゃあ何の作家なのかと聞かれれば回答に困る。この通り、良くも悪くも手広くしているからだ。一つを極めるべき、というタイプの作家さんには受け入れ難いタイプかもしれない。
実際、開店時には似た職種の方々に見ていただく機会もあったが、何とも微妙な顔をされたことを覚えている。純粋にいろいろ作れて「凄い」なんて言ってくれる人もいたが、そうではない人もいたわけだ。どんなに名を馳せた人でもみんなに好かれることは難しいのだから、私のような人間がそれを目指すなんて烏滸がましいことだ。それでも有り難いことに「可愛い」と言って買ってくれる人がいる。その人達を大事にしていければいい。これは決して当たり前ではなくて、とても貴重で嬉しいことなのだ。
ただ、私は人と上手く付き合うことが苦手な為、そんな大切なお客さんと会話をすることは皆無だ。接客なんて考えただけでも恐ろしくて絶対に出来ない。そもそも店頭に立たないのだから機会がない。とは言え、もちろん店頭には店員がいなければいけない。だから信頼出来る人と一緒に店を経営している。経営するにあたりお互いにいろいろ口出しはするが、主に私が売り物を作成し、もう一人が店での接客対応やら経営面を支えているのだ。
そのもう一人というのは私の友達なのだが、面倒くさがりだし、私よりはマシだが人付き合いが得意というわけでもない。そんな人でもあるので、店の経営については駄目元で打診してみたわけだが、話は驚くほどトントン拍子に進み、今は一緒に働いている。何度も言っている通り私は人付き合いが苦手なのでまともな友達と言えるのもその人しかいない。
「そう言えば、ご主人の作品売っているお店ってどこにあるんですか?」
作業中の私の手元をじっと見つめたまま、継兎が言った。
「ここよりもっと賑わいのある市街地の方ですね」
「じゃあもしかしてお洒落なお店だったりします?」
「市街地にあるからお洒落ってわけではないと思いますけど。でもそうですね、この家よりはお洒落ですね」
言ってから、この家と比べればどんな建物もほとんどお洒落になってしまうのではと思ったが、あえて言うのは止めた。
「今度一緒に行きましょう!」
継兎は行く気満々である。興味を持たないわけがないと思ってはいたが、あまりにも予想通りだ。
「まあ、気が向いた時にでも……」
「絶対ですよ!」
長い両腕をバタバタと机に叩きながら言った。木を彫っている最中にそんなことをされると、木屑が舞い上がるから止めてほしい。
「確か友達とやってるって言ってましたよね?挨拶もしないと」
「いやいやいや、本気でいらないです」
手土産は何がいいですかね、なんて考え込む継兎。本当に挨拶したいらしいが、しなくていい。むしろ会話なんてする気でいたのか。挨拶とか手土産とか、お前は私の親か。
「今までご主人が誰かとの用事で出掛けることとかなかったので、友達がいることがまず驚きなんですよね」
事実ではあるが、なかなかに酷い物言いである。そんなわけで言い返せないのだが、自分以外から言われると少なからず凹む。
「なんというか、彼は誰とでも仲良く出来るけど、本当の意味では誰とも友達にはならないって感じなんですよね」
彼は広く浅くの付き合いをモットーとしている節がある。
「と言うことは、ご主人はその人のことを友達と思っているけど、その人はご主人のことを友達と思っていな……」
そこまで言って継兎は口を噤んだが、今更遅い。もうほとんど声に出ている。でもその言いたいことは分かる。私のさっきの説明を聞いたら、真っ先にそう思うのが普通だ。
「そうですね。友達、なんて思っているのは私の方だけかもしれないですね」
少し笑いながら言えば、その様が自虐的に見えたのか、継兎は口を閉ざしたままだった。
実際のところ、彼が私を友達と思っているかどうかは本人に聞いてみないと分からない。それでも、相手がどう思っていようが、私は信頼しているし友達だと思っているからそれでいい。
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