17.デート

勉強やら何やらの日々を乗り越え、ようやく迎えたデート当日。

私にはもうデートという認識なんてなく、ただ出掛けるだけの気持ちでいる。行きたい所は継兎が自分で決めているらしく、デートプランは全て継兎任せなのだ。もちろん当日まで秘密ということでどこに行くかは全く知らない。

この時点でもう恐怖である。


家から一緒に行くのでは風情がないということで、待ち合わせ場所までしっかり指定されていた。もちろん先に出て待ち合わせ場所である最寄りの駅前で待つことになったのは私である。その間、ボーッと空を眺めて待っていた。


「お待たせしました」


その声に隣を向けば、予想外の服装をした継兎が立っていた。


「今日はデートって言ってませんでした?」

思わずそう声をかけていた。あまりにも、思っていた格好と違っていたからだ。

あれだけ服装がどうとか何とか騒いでいたのだから、当然女性らしい格好で来るものと勝手に思っていたのだ。彼女の服装は至ってシンプル。真っ白なTシャツに、七分丈の黒っぽいジーパン。そして、いつも通り片目を覆う眼帯。期待していたわけではないが、いわゆる女性らしい服装で来ると思っていたから驚いた。


「似合ってませんか?」

嬉しそうにその場でくるっとまわる彼女。


「似合ってはいます」

多分その服装が似合わない人の方が少ないと思うのだが、その心情は口に出さないでおいた。


「…」


私のその言葉に、まだ他に言うことがあるのではと言わんばかりに睨んでくる。そう言えば可愛いと言ってもらうとか何とか言っていた気がする。

「…可愛いですよ」

小さくそう言えば、継兎は満足そうに笑った。


「では早速、行きますか」

そう言って継兎は手を差し出してきた。これはあれか。手を繋げということなのか。その手をじっと見て戸惑っていると、むっとした声が聞こえた。

「女の子が手を繋ぎたがっているのに無視ですか」

「そこまでします?」

「ちゃんと本当のデートと思って臨んでください!」

「…はいはい」

仕方がないので手を繋いだ。今日くらいはちゃんと付き合ってあげよう。

もうこんなこと二度としないですむように。


手を繋げば、彼女はそのまま嬉しそうに歩いていく。私はただ継兎に引っ張られるように付いていく。どこに行くのか考えていると、多分あそこに行くんだろうなという候補がもう見つかってしまった。遠くに大きな観覧車が見える。

「遊園地ですか?」

前を歩く継兎に言えば、物凄い勢いで振り向かれた。

「何で分かったんです!?」

ありえないというくらい驚いているが、目の前に見えているわけだし、ここまで分かりやすいものもない。服装も、遊園地で思い切り遊ぶ為に動きやすい格好にしたのだろう。口ではデートをしようと言っていたが、やっぱりデートがどうこうというより、きっと自分が単純に行きたいところだったのだと思う。

私としても、変にお洒落な店に連れて行かれるよりは遊園地の方が良かったかもしれない。


「分かりやすいですよ、かなり」

「驚いてもらおうと思ってたのに」

立ち止まりぽつりと呟いたその言葉は、本当に心から思ってのものだったのだろう。しょんぼりと俯いてしまった。なんというか、こういうどこか抜けてて素直なところは可愛いかもしれない。

本人は真剣なのだろうが、私は少し笑ってしまった。


「楽しみにしてたんですよね?行きましょう」


私は継兎の手をぐっと引いて、前を歩く。

引かれた反動で継兎は前を向き、私の顔を見た。


「サプライズが全てではないでしょう。遊園地、楽しみですね」


しょげてる継兎にこんなことを言ってしまうくらいには、私も既に継兎のことを好きなのかもしれない。

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