2.ぬいぐるみ
それを見た時、第一に思ったことは“汚い”だった。
祖母の部屋で荷物を整理していれば、部屋の片隅におもちゃ箱があった。アニメや映画なんかで宝箱と称して出てくるような見た目の箱だ。ここにはいろいろなおもちゃを無造作に入れていたような気がする。
懐かしく思いおもちゃ箱を開け、思わず目を見開き、すぐさま閉じた。中に入っていたぬいぐるみはおもちゃと言うにはあまりに汚い。醜い、とも言えるかもしれない。一般的にはホラーチックな見た目だと思う。もう一度おもちゃ箱を開けてそれを見る。複数のおもちゃが入っているそのおもちゃ箱の一番上にある、それ。継ぎ接ぎがあまりにも目立つ。一瞬、祖母が作ったのかと思ったが、すぐにその考えは消えた。祖母は贔屓目無しにぬいぐるみを作るのがとても上手で、器用で、こんなあからさまな縫い目等見せないだろう。デザインならばともかく、これが狙ってやったものとは思えない。ただただ稚拙で、見るに耐えない。そう思いつつも、興味はあるので恐る恐る手に取る。
なんてことは無いただの縫い目が荒過ぎるぬいぐるみだ。確信を持って言えないが、多分、兎のぬいぐるみだ。ロップイヤーというやつか。垂れた長い耳、そして何故か手もやたら長い。それなのに足だけ小さく短い。兎に対して申し訳なくなるレベルである。持ち主にたくさん遊ばれたのか、あるいは元からこうなのか、その体はくたくただ。思わず「汚い」と漏らせば、手の中のそれが動いたような気がした。
さすがに動くわけない。そう思いつつも不気味な事に代わりは無く、おもちゃ箱に戻そうと手を伸ばした。その瞬間―。
「暗いところは好きではないです」
と、声が聞こえたのだ。一瞬伸ばした手を止め、大げさにぐるっと部屋を見渡す。人は誰もいない。音が出るようなものもない。ということは、だ。今自分の手の中にあるそれを見た。
「こんにちは」
そのぬいぐるみから言葉という音が聞こえた。
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