第15話 進撃の巨人 ヴィリー・タイバー

 彼とその一族は、エルディア人でありながら、世界中のエルディア人以外の人たちからも、認められた存在であった。


ヴィリー・タイバーはタイバー一族の末裔であり、テオ・マガト隊長と現実に向き合い、己の命を捨てて、マガトに後を託した人物である。


命とは何か? 私もそれはまだよく分からないが、それぞれにとって命とは絶対的なものでは無い事だけは確かであり、命をどう使うかが勝利の鍵を握ることも多い。


戦争では命を落とす事を、建前上は決して言わないが、死も前提として戦場にでる。


ヴィリーの役目は決まっていた。死ぬ事では無い。殺される事に、最大の意味を持たせる事が必要だった。大きく演説をし、皆の心を引きつけ、死が間近にある事を知りながらも、彼は役目を果たした。


そしてマガトは言った。それは全くもってダメージとしては意味の無い、鉄砲を撃った。「マーレ軍反撃の口火は今をもって切られた」

さらに「全員覚えておけよ。一番槍を入れたのはこの私だと」


これは現実では、あらゆる意味を持つ問題である。勝者になれば最大の功績者として称えられるが、敗北者となれば、世界から叩かれる意味をがある。


そしてそれが全く意味の無い攻撃であったとしても、それは誰も口にしない。見てもいないからだ。しかし、勇気ある行動だと、真実を知らない故に、認めさせる行動だった。


あの演説をすると決まった時点で、多くの読者はああなる事は、予想できたであろう。そうでもしなければ、世界は何かと理由をつけて、ひとつにならない事を二人は知っていた。


ヴィリー・タイバーはほんの少ししか、漫画には描かれていなかったが、死を覚悟し、殺されなければ、世界が終わると確信していた。仮に世界中が団結したからと言って、勝てるかどうかも分からなかったが、最低限それは必要な事だと言う事は理解していた。そして彼は食い殺される可能性が、一番高い事も知っていた。巨人の継承者だと見込まれるからだ。


敵であろうと味方であろうと、その世界に必要とされる人間は必ずいる。彼らは皆、己の命の大切さを知っていた。しかしその反面、自分の命の使い道も100%では無いが、それも理解の範疇にあった。


紅の豚で「良い奴はみんな死ぬ」この言葉の意味は、勇気を持って命を懸けて率先して戦うから、という意味だ。全員では無いが、それは三国志であれ、日本の戦国時代であれ、通用する言葉である。


ヴィリー・タイバーは、良い人物でもあり、本来は敵である、他国の者たちからも、信頼されていた。だからこそ一堂に会する事を、可能にさせた。世界が一日でも早く統一して、協力しなければ、彼は己の命の使い道や宿命的なものを感じていたのかと思う。勿論漫画の世界ではあるが、だからといって軽視は出来ない問題である。



これは現実でも同じ事だ。漫画や小説の世界でも、その中に存在する歴史がある。そしてウクライナ問題も10年後には歴史として残るが、全ては残らない。始まりと過程と終わり。それだけで歴史として残される。


つまりはそう言う事なのだ。我々が直面している事の殆どは、残りもしない歴史であるのだ。この観点から歴史を振り返って欲しい。どれほどの事があったのかを、少しでも知ろうとするならば、書かれていない歴史のほうが、遥かに多いもので、痛みや悲しみは歴史には残らない。


その時代を生きている者、つまりは経験者しか、知る事は出来ないものなのだ。ウクライナに直接的に関わる国々の人々でさえ、それほど知らないまま終わる。


しかも歴史には嘘も多くある。何度も言うが、スノーデンは生き字引的存在で非常に世界に対して、貴重な真実を公表した。彼はアメリカ人ではあるが、彼の目は世界にあった。彼のように挑戦した人は、計り知れないほど無数にいたであろう。


しかし、それはアメリカだけでなく、他の国でも言える事である。我々は今を生きている。現実を誰しもが多少は知っている。いつの日か子供に聞かれた時に、戦争という問題やその裏に潜むもの、戦争とは何か? を語らねばならない日が来るかもしれない。その時代を生きる我々が、次の世代に対して、戦争の本質を教える事は大切な事だと理解していただきたい。

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