サメ

 ゆっくりと海底に沈み、探索を開始しようとしたその矢先。


「うわっ、何だ!?」


 なんと、気をつければ危害を加えないと思っていたサメが、突然大口を開けて突進してきたのだ!


「もしかして、空腹だったのか?」


 真偽はわからないが、現状は非常にまずいことだけは確かだ。

 すぐに浮上して逃げようとしたが――。


「数が多い……」


 集まったサメの数が多く、その個体も興奮していて攻撃性が増していた。

 この潜水服は素早く動く装備がないので、普通の人間の泳ぐ速度では手も足も出ない。


 万事休すかと思ったその時、水面から何かが大量に降り注ぎ、放電したのだ。

 サメはその放電に驚き、混乱状態に陥っている。この隙を突いて、僕はなんとかへーゲル号の甲板に逃げることが出来たのだった。




「助かったよ、キャンプスさん」


 甲板に上がった僕は、キャンプスさんにお礼を言った。

 実は、この窮地を救ってくれたのはキャンプスさんだったのだ。


 実は潜水服のヘルメットには小型カメラが内蔵されており、潜水している人が見ている光景をタブレットや艦橋にあるディスプレイで見ることが出来るのだ。

 それで僕がサメに襲われているのを知ると、キャンプスさんは予備の潜水服を着て海に潜り、雷の魔力を纏った銃弾を連射したのだ。

 どうやらキャンプスさんの授かり物『コメット』は魔力を弾に乗せられるだけでなく、水中銃としても使用できるらしい。


「それにしても、よくサメの弱点が電気だってわかったね」


 サメは鼻先に電磁気を感じる器官があり、磁力や電気を浴びせるとそれを嫌がって逃げるらしい。

 今回はなぜか逃げる個体はいなかったけど。


 ちなみに、あの状況でサメに傷を負わせると状況がさらに悪化していたかもしれない。

 サメは血のにおいを嗅ぐと興奮して攻撃性が増すので、僕はすでに死んでいてもおかしくなかったかもしれない。


「船に乗るようになったから……時々調べてた……」


 アンバーさんは実家の立地もあり、陸上での活動が専門だ。

 ただ、ここ最近はへーゲル号に乗り海上での活動も多くなってきた。だからキャンプスさんは彼女なりに努力しようとして、海の生き物や魔物の知識を深めようとしていたようだ。

 その姿勢には、素直に尊敬してしまう。




 あのサメの大群をなんとかしないと満足に探索を行えないので、何かいい案がないか考えていたが……事件が発生した。

 ジェーン姉様が勝手に潜水服を着用し、海に潜ってしまったのだ。

 もっとも、姉様の事を止められる人は誰も居ないから、どうあがこうが同じ結果になってしまったとは思う。


 とりあえず注意だけはしておこうと、タブレットで姉様が着ている潜水服から撮られた映像をタブレットで見ている。


「思ったよりも早く泳いでいるね」


「光魔法で身体を纏っているからだろう。画面が微妙に明るい」


 エリオットの指摘通り、タブレットの映像は若干光っている。

 姉様は父様ほど身体強化系の魔法は得意ではないはずだが、ある程度は使えると言うことだ。


 しばらくすると、海底に到着した。

 だが……。


「あれは……サメ!?」


 頭上にサメが現れたかと思ったら、そこで画面が暗転した。


「あの、お兄様……これって……?」


「ホースを切り離したんだな……」


 実は、この潜水服は給気ホースを切り離し、単独行動を行うことが出来る。ホースを付けていると入れない狭いところを探索するための装置だ。

 実は、潜水服には酸素ボンベが内蔵されており、ホースを切り離しても1時間半は行動出来る。

 もちろん、潜水中に再接続も出来る。


 ただ、カメラからの映像はホースを通じて送信されているので、ホースの接続を切るとリアルタイムで映像が見られなくなってしまうのだ。

 潜水服に映像が録画されているので、後で記録を見ることは出来るが……この状況で海中の確認が出来ないのは辛い。


「キャンプスさん、悪いけど、姉様を助けに……」


「……その……実は……」


 キャンプスさんのコメットの魔力充填機能だが、前もって使いたい属性の魔力をチャージしておかなければならないらしい。

 雷の魔力はキャンプスさんがお世話になっているハンター、雷魔法使いのアンバーさんにチャージしてもらった物らしい。

 で、その魔力を僕の救出の際にほぼ使い切ってしまったので、雷の弾丸を使った救助は難しいらしい。


「おい、アレを見ろ!」


 エリオットが何かに気付き、彼が指さした方向を見ると……潜水服が浮かんでいた。

 最悪の事態を想定していたが、次の瞬間に開いた口がふさがらなかった。


「お~い! 見つかったよ~!!」


 なんと、ジェーン姉様が海面から姿を見せたのだ!

 赤い石を握りしめ、鯖折りにしたサメを担ぎながら……。

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