要塞攻略

 それから1週間後、諸々の準備を終えた僕達は要塞があるとされるポイントへ向かった。

 航海日数は、ノーエンコーブを出発してから10日程度。ヘーゲル号の足ならばそれくらいで着く。


「なるほど、確かにコレは攻略が難しそうだ」


「堅牢そうですね」


 メアリーがつぶやいた。

 その感想通り、非常に固そうな石を積み上げた、なかなか壊せそうにない壁がそびえ立っている。


 ちなみに今回は以前ハンザ連邦とフグレイク連合へ行ったときと同じメンバーを連れてきている。

 なお、父様はメアリーがこの作戦に参加するのに相当難色を示していたが、メアリーが『私はへーゲル号の船医なんです! お兄様に何かあったとき、助けられるのは私だけなんです!!』と強情に説得して乗り込んだ経緯がある。

 ちなみに、ジェーン姉様には何も言わなかった。おそらく、ジェーン姉様は強すぎるから心配していないのかもしれない。


 それともう一人、クリーバリー軍務大臣から付けられた人がいる。


「マンハントは初めてだから……ちょっとワクワクしている……」


 リディア・キャンプスさんだ。

 彼女はハンター学校でメキメキと実力を付けており、すでに活躍している一流ハンターに引けを取らないと評価されている。

 ただ、マンハントはやったことがないので、経験を付けさせるために今回の依頼を哨戒したという側面もあるようだ。


「それじゃあ、作戦を開始するぞ。準備はいいな?」


 全員の同意を確認し、船を進める。

 今は地平線の先に隠れているため敵からは見えないが、ここから飛び出せば敵に見つかり、戦闘の火ぶたが切って落とされる。


 僕達に課された任務は、要塞のどこかに穴を開けること。穴さえ開ければ、要塞を監視している艦隊がなだれ込んで要塞に人員を送り込み、制圧できる。


 そして僕は船を進めた。

 しばらくは自然と進んでいたが、ある地点から様子がおかしい。


『キャプテン、どうやら激しい海流があり、流されているようです』


「プロペラを回せ。抵抗を試みろ」


 だが、へーゲル号は流れから脱出出来なかった。

 この海流、明らかにおかしい。どうも僕達が要塞に近づいた瞬間に出来たように思えるし、へーゲル号のプロペラの馬力に勝ってしまう海流なんて、今まで見たことがなかった。


「ウィル、おそらく水魔法――しかも複数人で海流を操作しているんじゃないか?」


 エリオットの予想は、おそらく真実に近いのではないだろうか?

 そうでなくては、この現象の説明が付かない。


 しばらく流されていると、要塞の外壁がV字にへこんだ部分に押し込まれた。

 要塞の外壁からは無数の大砲の砲身がこちらを狙っている。つまり――。


「――集中放火されるな」


 大砲が一斉に火を噴き、砲弾がへーゲル号に殺到した。


『損傷軽微』


 普通の船なら即沈没するだろうが、へーゲル号の防御力は格別だ。

 しかも出航する前、装甲を2段階上げておいた。ちょっとやそっとでは沈まない。

 むしろ、こんなに丈夫なへーゲル号に対しわずかでもダメージを与えられる敵がすごいのだろう。


 だが、このまま待っていてもいつかは沈んでしまう。

 先に敵の弾薬がなくなる可能性はあるが、楽観的な観測は避けるべきだ。

 そして逃げることも出来ない。海流が邪魔をしていているからだ。


「マリー、ミサイルランチャーを出せ」


『了解』


 実は3000ポイントをかけ、船尾にミサイルランチャーを装備していた。30メートル以上の船体が必要だが、すでにその条件はクリアしている。

 ミサイルランチャーは普段甲板下に格納されており、必要に応じて甲板上に現れる。

 5×3発のミサイルを装備している。大砲と同じく風魔法で発射し、風魔法もしくは水魔法で破裂させるのだ。


「まずは敵の後方を攪乱させる。要塞の中心に向かって撃て」


『了解。ミサイル、発射します』


 パシュパシュパシュッ、とミサイルとは思えない少音で発射される。

 ミサイルは垂直に上昇すると、要塞の中心へ向かって下降する。

 そして、爆発。風魔法で破裂させているので、風船が弾けたような音が鳴った。

 あまり強そうな音ではないが、要塞から聞こえる悲鳴や怒号からして、かなりの被害を与えたのだろう。


「お兄様、すごいです!」


「かなり有効な武器だね。非常に興味が湧くよ」


 メアリーとエリオットからは賞賛の声が聞けたが、ジェーン姉様は何も言わなかった。どうも突入の方に興味が向いているらしい。

 キャンプスさんも何も言わなかったが、火器類であるからか興味津々だった。


「砲撃が収まったな。マリー、ミサイルランチャーを打ち続けろ。運が良ければ水魔法使いを倒せるだろうし。それと、進入路を作るぞ。大砲に溶解弾を装填し、壁を破壊しろ」


「了解しました」


 溶解弾とは、メアリーが発明した弾の1つだ。

 強力な酸を詰め込んでおり、岩や金属で出来た壁を溶かし、破壊するのだ。


 加えて、大砲も800ポイントを使って1列当たり40門まで増設した。これも30メートル以上の船体が必要だがすでにクリア済みだ。

 今のへーゲル号は3層あるので、大砲の列は3列。つまり片舷で1200門もの大砲を装備している。


 その大砲が一カ所に集中して弾を撃てば――簡単に穴が空く。


「よし、要塞に侵入して白兵戦だ。友軍に連絡。進入路を確保したと伝えろ」

 

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