突入戦

「エリオット、へーゲル号を頼む」


「ああ、船のことは任せろ」


 へーゲル号は、基本的に僕の指示や操作でなければ動かせない。

 しかし、一時的に僕が指名した人が船の管理や操作ができる。

 今回はその機能を使い、エリオットにヘーゲル号のことを任せたのだ。


 これから僕は、ジェーン姉様とキャンプスさんと一緒に要塞に突入し、この要塞を完全に制圧するつもりだ。

 僕はアサルトライフルをメインウエポンに、拳銃2丁とナイフを持っている。また、以前父様から贈られたモビー・ディックという大型の鯨型の魔物の革を使ったコートと帽子を航海中は常に着用しているので、防御面もばっちりだ。

 ジェーン姉様は魔法で戦うので、申し訳程度のナイフのみを持ち、僕のコートと帽子の白バージョンを着用している。もちろん、父様が用意した物だ。

 キャンプスさんは授かり物の銃『コメット』をサブマシンガン形態にして武器にしている。さらに、『アイアンビートル』という鋼鉄以上の強度を持つカナブン型の魔物の甲殻を使用した軽鎧を装備している。

 ちなみに、軽鎧の材料はキャンプスさんのお姉さんが狩ってきた物をプレゼントされたらしい。


 準備をすぐに整えると、僕達は船の舳先から要塞の穴に飛び込んだ。

 そしていきなり、ジェーン姉様が光魔法を広範囲に照射した。


「弱すぎじゃ~ん。もっと楽しませてよ~」


 発現はちょっとアレだが、進入口付近の敵を一掃できて良かった。

 要塞内に進入すると、まずその光景に驚いた。


「スカスカすぎるだろ……」


 要塞の壁の中は、明らかに『まだ建設中ですよ』と言わんばかりの建造物の無さと無造作に置かれた資材が目に付いた。

 もちろん、ミサイルを何十発も撃ち込んだので死体も含めて色々と散乱しているが。


 そして中心には、多少高いかなという程度の建物があった。

 あそこに、この要塞の頭がいると見て間違いないだろう。


「とりあえず、あの建物を目指すぞ」


 襲ってくる敵を排除しながら建物に向かって走った。

 そして建物に到着した……が、扉には鍵が掛かっていた。


「……任せて」


 キャンプスさんはコメットを散弾銃に変形させると、鍵穴に向かって何発かぶっ放した。

 そして扉を蹴り飛ばすと、見事に扉が開いた。


「……動かないで」


「この野郎!!」


 中にいた人物が何らかの方法でキャンプスさんを襲おうとしたらしいが、キャンプスさんは冷静に引き金を引いていた。

 僕とジェーン姉様も続いて建物に突入した。

 そこには、上等な服装を身に纏った人が4人、魔方陣の上に倒れていて、その奥に最も豪華な服を着た初老の男性が腰を抜かしていた。


「ふ~ん、この魔方陣の上で何かしてたのか~。あの海流を操作したのかな~?」


「……そうなの? 襲ってきたし、嫌な気がしたからさっさと狩っちゃったけど……」


 ジェーン姉様の言うとおり、ここでヘーゲル号を流した海流を操っていたのだろう。

 それに、キャンプスさんの強みというか、恐ろしさを垣間見てしまった。

 あの決断の早さと思い切りの良さ、そして躊躇の無さ。ハンターとしての才能の1つなんじゃないだろうか?


 それはさておき、僕は銃を構えつつあの初老の男性へ近づいた。

 あの服装からして、この要塞のトップとみて間違いないだろう。


「あんたがこの要塞の頭か?」


「だ、だとしたら何だというのだ?」


「僕達とご同行願おうか。あんた達の国について、色々聞きたいことがあるからね」


 すると初老の男性は舌打ちをしつつ、毒づいた。


「クソッ、アバーテ派の奴らめ! 下らん派閥闘争でこの要塞に人を送らなかった結果がこれか!!」


 かなり怨嗟の籠もった叫びだが、この台詞から察するにどうもレリジオ教国も一枚岩というわけではなさそうだ。

 ちょうどその時、友軍の艦隊の兵士が要塞になだれ込んできた。要塞の周りを流れていた海流が消えたため、船を近づけることが出来たかららしい。


 そんなわけで僕はこの男性を艦隊の司令官に引き渡し、アングリア王国へと帰国したのである。

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