騒動の裏側
無事にハンターとの共同依頼を終えてしばらく後。
僕達の宣伝的な依頼が功を奏したのか、商船などの民間船にハンターを乗せる事増えつつあった。
しかし水上の戦闘に対応出来るハンターは限られており、慢性的なハンター不足に陥っていることもまた事実であった。
そこで、海運ギルドとハンターギルドが共同で訓練ができるカリキュラムを作ることになった。
このカリキュラムを何度か受けることにより、水上戦闘が出来るハンターを多く育成できるのだ。
そして、国の方でも不穏な動きを見せるレリジオ教国に対しての対応方針が決定した。
まずは、各国から留学生を積極的に受け入れるという姿勢だ。
実は、レリジオ教国は長年岩渡世界各国にちょっかいをかけてきた歴史がある。
アングリア王国の場合は偶然性が強いが、ほとんどの国がフグレイク連合の件を発端に調査航海を行った結果、レリジオ教国から直接船で行けてしまう国の沖合で不審な船が集まっている状態が確認された。
もちろん、その不審船は全てレリジオ教国の船だ。
この状況から、アングリア王国としては世界各国で連携を強化する必要があると判断。
通信魔道具で急遽会談を開き、各国の協力を取り付けたそうだ。
この世界でも世界中で意思統一するのはまず不可能なのだが、ここまで早く話がまとまったのはレリジオ教国の脅威度が非常に高いことが一番の要因だろう。
そしてレリジオ教国に対抗するため、突出して進んでいるアングリア王国の船関連の技術を各国に学んで貰うため、留学生を多く受け入れることにしたのだ。
造船技術はもちろん、新型の船を操作するための航海術、そして海軍の運用方法などを学んで貰う。
それと平行して、アングリア王国の外海に潜んでいると思われるレリジオ教国の船団を叩くことも決定した。
実は、僕達が鹵獲した船から出てきた暗号文の解読が完了した。
この暗号はハイフンで繋がれた数字が羅列してある物だったのだが、どうやら前方の数字が聖典の版数、後方の数字がページ数を表しているらしい。
この指定されたページの一番始めの文字を、例の文字がたくさん書かれた海図に当てはめると、複数の海図上の地点がいくつも浮かんでくる。
この地点はレリジオ教国までほぼ直線的に繋がっているのだが、何を意味しているのかは今のところ不明だ。
とりあえず、この地点を一つ一つ捜索していくつもりらしい。
さて、僕の方はというと依頼が終わってから何も予定が入っていなかったので、そのまま学校生活を続けていた。
もっとも、あと1週間足らずで夏休みに入るので、ノーエンコーブに戻るための準備を始めていた。
もちろんヘーゲル号で帰るので、航海用品を手に入れるため色々な店を回っていた。
そんな時、エリオットが開発した太陽を直接測定できる六分儀が発売されたと聞いたので、買い物がてらそれを見るためエルマン商会へと足を運んでいた。
「お、あった。エリオットも鼻が高いだろうなぁ」
目的の物が見られたので、自分が必要な物を探そうと店内を歩き回っていると。
「失礼します、コーマック様。何かお探しでしょうか?」
声を掛けてきたのは、この店でも上の方の立場にいる店員さんだ。
以前エルマン君がらみで迷惑を掛けられたことと、授かり物の強力な船を保有していることもあって、僕はこの店のVIPとなっていた。
「夏休みに入るときにノーエンコーブへ帰るので、そのための航海用品をそろえておきたいので――」
「承知いたしました。ではこちらへどうぞ」
VIP待遇であるので、宝石店やブランド店のようにVIPルームで欲しいものを伝え、商品を持ってきてくれるのだ。
そういうわけで、僕は接客を受けながら欲しいものを伝え、品物を持ってきて貰う。
そして自分の目で商品を吟味し、買う物を決定。後は料金を精算する。
なお商品は、後でコーマック伯爵邸に持ってきて貰う。
ついでに、世間話も色々した。
「新型の六分儀の売り上げはどうですか?」
「従来の六分儀とあまり変わらないですね。むしろ追加パーツの方が売れています。やはり、皆様使い慣れている物を使い続けたいと思われていますから」
船乗りも職人っぽいところがあり、愛用の使い慣れた品を使い続けている場合が多い。
同じ品でも新品を使うと上手く使えなかったりする場合もあるそうで、なかなか侮れない要素だ。
そういう事情を知っていたので、エリオットは従来の六分儀に装着できる、太陽光を抑えるレンズフィルターを開発していたのだ。
「友人の考案した物が世間に上手く浸透できているようで安心しました。ところで、デイヴ・エルマン君はどうされています?」
「旦那様に大層叱られまして、下働きを命じられております。現在は在庫番をしておりまして、指定された品物を店に出したり、工房から送られてくる製品の搬入をしたりしています。よろしければ、呼び出しても構いませんが?」
「いえ、遠慮しておきます。話すことは何もないですし、下手に話すとこじれそうなので」
直接話すことは断ったが、エルマン君の事について店員さんが(愚痴っぽいが)色々話してくれた。
「デイヴ様の上にお二人の兄弟がいらっしゃいまして、長男は時期エルマン侯爵として恥じない能力を持っており、次男は商務官僚として優秀な仕事をしております。そのような兄君達と比べられて育ったデイヴ様は非常に自己評価が低く育ってしまい、貴族の子息という点でしか自分を守る術がないのです」
「ああ、だから以上に自分が貴族の一族であることを鼻にかけていたんですか」
自分の誇る物が何もなく、最後に残った武器が自らの出自だったのだろう。
ただ、それだと少し疑問が残る。
「しかし、デイヴ君も優秀な人なのでは? 商会の経営を任されていたのですし」
何度かエルマン侯爵に会ったが、その人はどうも実力主義的な考えを持っているように感じた。
僕の感じ方が間違っていなければ、エルマン侯爵は自分の息子と言うだけで商会の経営をやらせないはずだ。
「その通りです。デイヴ様は『鑑定』の才能を持ち、様々な商品を扱う貿易商としては優位に立てるポテンシャルをお持ちで、経営感覚にも優れているお方なのです。しかし、遙か上を行くご兄弟をお持ちなので――」
劣等感しか抱かず、自分の能力に気づけていない、と。
そんな中で自分の身分より低い僕が商船学校初の外国への航海を行うというのだから、気持ちをこじれさせまくって邪魔をしてきた、と。
事情を知ると、彼の能力をこのままにしておくのはもったいなさ過ぎる。
「では、伝言をお願い出来ますか? 『貴族家の運営や官僚として求められる能力と商会を経営する能力は違う。そもそも比較出来る物じゃない。比べるだけ無駄だから、一度自分の能力や才能を見つめ直すべきだ』と。もちろん、匿名で」
「かしこまりました。必ずお伝えいたします」
さて、これでエルマン君はどう変わる?
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