それぞれの近況
今回、僕はエリオットとジェーン姉様は連れてきていない。
エリオットは、前々から取り組んでいた太陽を直接測定できる六分儀が完成したので、それの特許取得と発表のために色々と忙しく、連れ出せる状態ではなかったからだ。
ジェーン姉様は『エリオットが行かないならあたしも行かない』と拒否。
一応、商船学校で丸々1年は学んでいたので船の上では僕の指示に従ってくれるが、それ以外では姉様に命令を出せる人間なんて数えるほどしかいないのではないだろうか?
そういった事情があるので、船医としてメアリーだけ連れてきている。
さて、今回の依頼の進捗状況だが、ハッキリ言ってヒマの一言に尽きる。
さすがに大陸の沿岸ともなると普段から海軍などの組織が定期的に魔物を間引いて安全を確保しているし、水深の関係で大型の魔物の生息に適していない。
その結果、ヘーゲル号の武装だけでほぼ事足りている。
そんなわけで半ばクルージング気分で航海しているわけだが、船を動かしながらアルフさん達の近況について話をしていた。
「アルフさん、結婚されたんですか!」
「まあな。しかし、同時に2人と結婚するとは思っていなかったが」
お相手は同じく僕と一緒に仕事をした事があるジェニーさんとアンバーさん。
初めて会ったときから、僕はなんとなくこの3人がくっつくだろうなとは薄々感じており、結婚するのも時間の問題だと思っていた。
しかし、驚いたのは結婚に至る経緯だった。
なかなか自分からアクションを起こさないアルフさんに対し業を煮やしたジェニーさんとアンバーさんは、2人がかりでアルフさんに襲いかかったそうだ。
その過程で『あたし達とやるのは――嫌?』などと質問されればNOと言える男なんてまずいないんじゃないだろうか?
そして既成事実を半ば無理矢理作らされてしまったアルフさんは、責任を取る形で(僕はそう言い訳して覚悟を決めたように思うが)結婚したらしい。
さらに、結婚後にジェニーさんの妊娠が発覚。アンバーさんもジェニーさんを手伝うためにハンターとしての仕事をセーブし、今回のような遠方へ行く依頼を断っているそうだ。
「ま、俺の経験を教訓に、船長も気をつけた方がいいぜ? 俺と同じ匂いがする」
「何を言ってるんですか。僕はメアリーとは婚約していますから、アルフさんとは状況が違いますよ」
「いや、そうかもしれねえけど、そしたら何で……いや、やっぱいいや(言っても無駄な気がするし)」
最後の方は小声で聞こえづらかったが、これもアルフさんの厚意なのだろうか?
日を改めて、今度はキャンプスさんの近況を聞いてみた。
「キャンプスさんは、ハンター学校に入学したのか」
ハンター学校とは、文字通りハンターを育成するための学校だ。立場としては商船学校や軍学校と同じく、学園を卒業したら入学できる進学先の1つでもある。
ハンター学校では1年目に基礎教育を受け、2年目からは1年目の時の評価や本人の希望に沿って魔物ハンターかマンハンターとしての専門的な教育を受けるらしい。
ただ最近の情勢の影響もあり、選ばなかったコースのカリキュラムを多少受けられるようにしようと学校側が考えているらしく、来年から新カリキュラムのスタートを予定しているとか。
ところで、ハンターは別に学校に入学しなくてもギルドに登録すれば誰でもなれるし、基本的な知識や技術はギルドが主催する講義を受けて身につけることが出来る。
ではハンター学校がなぜあるかというと、要はエリートを養成するためだ。
事実、生存率や成果を比較すると、ハンター学校を卒業した人の方がいい傾向があるらしく、年齢が若いほどその傾向は顕著になるらしい。
逆にある程度年齢が高いと、今度は経験の要素の絡み方が強くなるため、差が縮まってくるそうだ。
また、現役引退した後ギルドの運営に関わり高い地位を築くのも、ハンター学校卒業者が多い。これは基礎的な教養を幼い頃から身につけている人が多く、運営に必要な知識を身につけている場合が多いからだ。
もちろん、ハンター学校卒業者だけが出世できるわけではない。アルフさんのように、たたき上げでも優秀な成果を収めている人も多数存在している。
まぁ、海運ギルドも同じようなことを言えるかもな。
僕もメアリーと出会わなければ、たたき上げの船乗りとして生きていた可能性が高い。
「ところで、何でアルフさんと一緒に依頼を?」
「学校から頼まれて……」
考えてみれば当然の事だが、国が商船学校を通じて僕に依頼を出してきたのと同じく、ハンター学校にも依頼を出してきたらしい。
そして選ばれたのが、学園時代に銃の腕を磨き合ったキャンプスさんだった。
ハンター学校から依頼について説明があったとき、キャンプスさんに『水上の戦いになれた現役ハンターを同行させる』と言われたらしい。
そのハンターこそ、アルフさんだったわけだ。
「話は変わるけど、あなたの義妹、兼、婚約者の事だけど……」
「メアリーがどうかした?」
話を聞くと、どうやらメアリーから事あるごとに『兄様が一番愛しているのは私ですから』とか『兄様の初めてを貰うのは私なので』とか訳のわからないことを言われているらしい。
「もしかしたら、嫉妬しているのかもな」
「嫉妬? 私、あなたのことは銃のライバルだとは思っていても、そういう感情を抱いたことはない」
「僕も以前そう言ったんけどね。もしかしたら、自分の立場をいつか脅かしてしまいそうで不安なんじゃないかな? ま、この件はなんとかしてみせるよ」
実はヘーゲル号の船長室は、船が大きくなると同時に部屋も広く、豪華になるという性質がある。
ベッドも同じくどんどん広くなり、今ではダブルベッドサイズにまで広くなっていた。
なのでメアリーと一緒に寝るときは少し距離を取っていたのだが、今日は昔みたいに抱きしめてやろう。
そしてその効果はあったようで、この日以来メアリーのキャンプスさんへの当たり方が柔らかくなったとか。
なお、キャンプスさんとの会話をアルフさんが眺めていたのだが、なぜか優しい目をしていた。
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