遭難事件の後始末
ノーエンコーブへ戻ると、エルマン君を始め船員の皆さんは保護され、しばらく病院に検査入院することになった。問題が無ければ退院するらしい。
ちなみに、エルマン君は救出された後、非常におとなしく船室で待機していた。やはりエリオットの存在が釘を刺す結果になったらしい。
あと、船室の数を増やしたとはいえ救出した船員全員に船室をあてがうことは出来なかった。
そのため、心苦しいが廊下や空きスペースで寝てもらう事になってしまった。文句を言わずにむしろ感謝してくれたので、こちらとしてはありがたかったが。
数珠つなぎに曳航してきた船だが、エルマン君の船は当然ながらドック行き。レリジオ教国の船団に襲われ、結構ボロボロにされたので修理と総点検が必要な状態だったのだ。
一方の船団のリーダー格と思われるブリッグの方だが、例の海図や暗号を含めて本格的に調査されるらしい。
また、暗号らしき文字が書かれている物品が発見されているため、軍から暗号解読を行うプロが派遣されてくるそうだ。
そして僕達が運んできた積み荷の精算が終わった。
結果は1000万リブラを上回る売り上げをたたき出した。利益はおよそ800万リブラ。この高い利益率は、4人だけで航海をしたため人件費がほとんど掛からなかったことが大きい。
もちろん、ボーナスをちゃんと支払うつもりだ。
さらに、1回の航海の売り上げが1000万リブラを越えるのは、商船学校史上初の快挙らしい。
こうして、ハンザ連邦への貿易航海に端を発した冒険は、ひとまずの終演を迎えたのだった。
数日後、僕達は王都の屋敷に戻り、通学を再開していた。
エルマン君については、国外への航海を強行した挙げ句遭難し、船員の命を危機にさらしたこと。さらにアングリア王国の船乗りの絶対遵守しなければならないドラモンド・ルールを破ったため、処罰を免れなくなってしまった。
しかし学生という失敗がある程度許される身分であることが考慮され、3ヶ月の自宅謹慎処分となった。
僕、メアリー、エリオット、ジェーン姉様はハンザ連邦、さらにその先にあるフグレイク連合との貿易航海を成功させ、1000万リブラ以上の売り上げを上げたこと。
そしてフグレイク連合での不審船団(実際にはレリジオ教国船団)の正体を暴き、フグレイク連合近海から追い出した事の一助を担ったこと、エルマン君の船の捜索と発見、さらに不審船団と交戦し壊滅させたことが評価された。
その結果、商船学校に入学してからわずか半年で卒業できる単位数を取得できた。
これは商船学校開校以来の最短記録で卒業要件を満たしたことになるそうだ。
ただ、ジェーン姉様だけは1年先輩なので、レコードホルダーにはなれなかったが。
このまま卒業してもいいし、残りの2年半は通学しなくても良くなったのだが、学校に通うことで得られる人の縁という物もある。
今共に学んでいる人の中で、将来海運業界の重鎮になる人も出てくるかもしれないのだ。
だから、僕はまだ学校に通い続けている。
そして僕の商船学校での立ち位置だが――。
「コーマック君、航路の事で相談があるんだけど……」
「このくらいの物資を持って行けば足りるかな?」
「こういう貿易をしたいと思うんだけど、どう思う?」
船主クラスでは、入学してから半年経った頃に船を出す場合が多い。
単に持っている船の運航を船乗りに任せて派遣したり、自分が船に乗り込んで現地まで商談に行ったり、数は少ないが船長や船員を兼任して自ら船を操る人もいる。
このように船出する生徒からアドバイスを求められているのだ。
僕は通常の船の運航事情を知識としては知っているが、実感は皆無だ。
ヘーゲル号というこの世界では特殊すぎる船に乗っている身としては、普通の船で起こりうる事について、本などの情報ではまかないきれない部分も多くある。
だから得られた情報を元にアドバイスを送るが、『きちんと他の人の意見も聞くように』とは言い含めている。
船主クラスの生徒は、学生の身でありながら船の運用に関わることが出来る環境にいるのだから、ベテランの船乗りと話すことぐらい簡単だろう。
そういう学校生活を送って1ヶ月。
そろそろ夏休みに突入しようかという時に、担任の先生から呼び出された。
「実は、依頼がある。しかも国からだ」
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