逃走
不審船の後を付けていたら、巨大な氷の上に氷で出来た要塞がそびえ立っていた。
「明らかに人工的な物ですね。氷魔法を使って建てているのではないでしょうか?」
『メアリー様のおっしゃるとおりです。核となる氷を元に氷魔法で巨大化させ、要塞を建築しているのでしょう。氷魔法の反応が検知されています』
「それと、土魔法の力も感じるね。しかも氷の下から。おそらく、海底を土魔法で杭を逆さにした形に隆起させて氷に刺しているんだろう。流されないようにするためと、氷を安定させるためかな」
メアリー、マリー、エリオットが視覚情報や魔法の反応を元に推測を立てていく。
魔法の才能を持っている場合、程度の差はあるが同じ属性の魔法に反応する。エリオットは自分が持つ土属性の魔法と同じ力を、あの氷の下から感じ取ったようだ。
「わざわざ氷で作っているって事は、真夏になったら撤退するつもりなのか?」
現在、気温の上昇と共にフグレイク連合やその周辺から氷が溶け出すため、流氷が最もよく流れる時期だ。
だがもう1ヶ月もすれば真夏となり、氷も溶けきるため流氷はなくなる。すると、あの氷の要塞は目立つことこの上ない。
もしエリオットの言うとおり海底を杭状に隆起させたのだとしたら、ここに永住する気ではないのだろう。
そうなると、連中の目的は何なのか気になる。
『キャプテン、これからいかがなされますか?』
「威力偵察って事で一発魚雷をぶち込んでやっても良いけど――相手の戦力がわからない。下手につつくよりは一旦スーハウに戻って、サルマント支部長と相談してから――」
そう言いかけた矢先、巨大な火球がヘーゲル号のマストの上をかすめ飛んだ!
「な、なんだ!?」
『強力な火属性の魔法のようです。明らかに敵意を持っています』
そんなバカな! ここは相手から見て水平線の向こうにいるはずだぞ!?
「おそらく、強力な探知の才能を持った人物がいるんだろう。強力な探知の才能は、水平線の向こうも楽に探知できると聞く」
そういうことか! エリオットの説明が正しければ、もう僕達のことは相手にバレている。
なら、取るべき手は1つ!
「180度回頭! この場を離れて、とっとと逃げるぞ!!」
逃走を開始してから10分。
「なんなんだコイツら? 全然振り切れない!!」
要塞から無数の船が出現し、僕達を追跡した。
僕はヘーゲル号の帆を全て広げ、プロペラも全力で回転させるよう指示。ヘーゲル号の船体がスピードを重視したシャープな形になっているため、この世界の船の中でもダントツで最速を誇っている。
にもかかわらず、あの船団は見事にヘーゲル号にピッタリ付いてきているのだ。
『風魔法及び水魔法の反応を確認。どれも高い威力を誇っています』
「風魔法で帆に風を当て、水魔法で海流を操作して船を押し流す。それでヘーゲル号に付いてきている、という訳ですね?」
メアリーが推測を立てたが、おそらくその通りだろう。
しかもその船団、様々な魔法を左右からバンバン撃ちまくっており、徐々にヘーゲル号の耐久力が削れていっている。
「ウィル~、あたしがなんとかしてあげようか~?」
「いくら姉様でも無茶だから!」
敵から撃たれている魔法は、全て船体に命中しているわけではない。甲板の上を飛んでいる物も多数存在しているのだ。
その状態で甲板に出るのは無謀と言うほか無い。いくら色々とスゴいジェーン姉様でも、命の危険がある。
こちらも大砲や魚雷で応戦しているが、相手は数に物を言わせている。
いくら船を沈められようが、後から新しい船がやって来てキリが無いのだ。
そして、そんな状態がさらに10分続いた。
耐久力については問題ない。削られてはいるが、このダメージの低さではヘーゲル号を沈めるのは無理だろう。
しかも、ヘーゲル号にはポイントを使って完全に修理する機能がある。まだポイントは余裕があるので、本当に危なくなったらダメージを無かったことに出来るのだ。
だが、このままスーハウに逃げ込んで良いのかという問題がある。
突然敵性船団を引き連れてスーハウに近づけば、混乱させてしまうかもしれない。
そんなことを考えていると、2時と10時の方向に氷山が見えた。
それを見た僕は、起死回生のアイディアを思いついた!
「マリー、合図をしたら2時と10時方向にある氷山を破壊しろ」
『了解』
そして氷山が真横に来たタイミングで、命令を出した。
「破壊しろ!」
ポポポポポポポポポポポン!!
ヘーゲル号特有の大砲の発砲音が鳴り響き、砲弾は見事氷山に命中。
巨大な波が起き、敵のカッターやスループはほとんどが破壊され、破壊を免れても転覆してしまい、とても追跡できる状況ではなくなってしまった。
フグレイク連合に向かう途中で砕氷衝角の性能を試していたとき、小型船なら沈めそうな波が起こるのを確認。そのことについてジェーン姉様と話していた。
そのことを思いだし、いいタイミングで氷山を破壊させたのだ。
「魔法の長時間使用で船に負荷が掛かりすぎていたんだな。だから破壊される船が多かった」
エリオット曰く、魔法を使い船のスペック以上にスピードを出すと船に負担が掛かるらしい。
なので魔法を使うのならば長時間使用は避けるべきとされているらしい。
ではなぜ敵船団は魔法を長時間使用していたのか?
よほど目撃者を返したくなかったのか、あるいはその知識を知らなかったのか……。
そして、この大波を乗り切った船が1隻いた。
一回り大きく、マストを2本装備していた船だ。
元の帆装はブリッグ――2本マストで全て横帆を張った船だったか。
すでにマストが折れてしまい満身創痍の状態であるため、確認のしようが無いが。
驚くべき事に、そんな状態であっても水魔法による海流操作のみでまだ追跡を続行しようとしている。
よほど僕達を帰したくないらしい。
「ウィル~、あたし、行ってくるよ」
「俺も一緒に行く。俺とジェーンでやった方が、効率がいいからね」
そして2人が甲板に出ると、まずエリオットが粉末をまき散らした。
その直後にジェーンが光魔法を発射。すると、光魔法が拡散し、広範囲に降り注いだ。
それを何発か繰り返すと、敵船から人の気配が消え、完全に停船したのだった。
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