哨戒任務
「改めて、我々の支部に所属するメンバーが失礼な事を致しました」
僕達は海運ギルドスーハウ支部の支部長室の応接室で、支部長のサルマント氏から改めて謝罪を受けていた。
「状況は、相当切羽詰まっているようですね」
船が掲げている旗をよく見ずに犯人扱いするなんて拙速だと言わざるを得ないが、見方を変えればじっくり観察する余裕が人々の心から失われているとも言える。
「ええ、実はそうなのです。最初はただ徘徊するだけだったのですが、そのうち襲われる船も出てきていまして。しかも強力な魔法の才能を持った人員を乗せていたり武器を搭載したりしていて、有効な対処が出来ない状態なのです。現役時代の私でも捕まえられたかどうか……」
フグレイク連合は、勇猛果敢な国民性が知られている。要するに強いのだ。
そんな国の兵士やマンハンターを相手に手玉に取るとは、一体不審船の正体は何なのだろう?
ちなみに、サルマント支部長は海運ギルド所属でありながらハンターギルドにも所属していたらしく、現役時代は船を乗り回し魔物・海賊共に狩り回ったらしい。
デスクワーク主体となった今からでは想像も付かないが、実は武闘派だったのだ。
「それで、皆様の腕を見込んでお願いがあります。スーハウに滞在している間だけで良いので、不審船を沈没、拿捕、もしくはしっぽをつかめそうな情報を探すだけでも良いので、少々お力をお貸しいただけないでしょうか?」
さらにサルマント支部長は通常の依頼の報奨金だけでなく、僕達が運んできた交易品に色を付けるし、仕入れる予定のフグレイク連合の産物についても便宜を図るつもりだとも語った。
もちろん、アングリア王国の商船学校に連絡して、この件についても単位を与えるよう交渉するらしい。
非常に魅力的な話だが、戦闘になる可能性がかなり高いことを考えると少し考えてしまう。
特に、勇猛果敢で知られるフグレイク連合の人達でも手を焼いていることを考えると、果たしてヘーゲル号の能力がどこまで通用するのか心配になるのだ。
「引き受けましょう、お兄様。アングリア王国にフグレイク連合産の商品が極端に少なくなり、影響を受けている人が多く居ると聞いていますから」
「そうだね~。あたしとしては、その強い人達に興味があるかな~」
メアリーとジェーン姉様は乗り気なようだ。
一方は母国の経済的な視点から、もう一方は単純に強敵と戦いたいという戦闘欲的な物と分かれてはいるが。
「俺もこの依頼を受けるべきだと思う。コーマック伯爵が言っていたことと何かつながりがあるような気がするんだ。もし気のせいだったとしても、それはそれで安心できる材料になるからな」
エリオットも賛成らしい。
確か、父様は今年のレリジオ教国の船団の中にカッターやスループもどきが紛れていたと言っていた。
そしてフグレイク連合に出没する不審船は縦帆を装備している。何か接点があるかもしれないのだ。
「わかりました。短い期間ではありますが、その依頼お受けしましょう」
「ありがとうございます。こちらの方でもサポートはしっかりさせていただきますので」
こうして、僕達は不審船の対処を行う事になった。
翌日の夜から、僕達は不審船のしっぽをつかむため哨戒を行っていた。
「なんで夜にやるんですか?」
「ヘーゲル号の大きさと色かな」
ヘーゲル号はすでに60メートルもあるし、船体の色は青、帆の色は夕日色と目立つことこの上ない。
だから、船の照明をほぼ全て落とした上で夜に行動した方が見つかりにくいのだ。
というのも、実際の力の差はどうか知らないが、こんな巨体を持つ船に正面切って戦おうとするのは避ける可能性があるからだ。
大きい船というのは搭載している武装も多いし、戦闘に参加する船員も多い。なにより威圧感があり、戦闘意欲を失わせすぐ逃げる可能性が高い。
「なるほど、そういう訳なのですね」
「それと、可能ならば後を付けたい。あいつらがどこを根城にしているのか気になる」
根城さえ見つかれば、殲滅する作戦を立てやすくなるからな。
僕達がスーハウに滞在する期間は1週間程度。それまでに手がかりの1つでも見つかれば良いが。
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