南の港街

 6月になると父様の王都での仕事もほぼ終わり、ノーエンコーブへと戻ることになった。

 僕も父様に従ってノーエンコーブに戻ることになるが、学園で勉強しなければならないメアリーには泣かれた。永遠のお別れじゃないかって言うくらい泣かれた。


 その時は『夏になったらまた向かえに来てやるから』と言って落ち着かせた。要は夏休みに入るときに船を出すという意味だ。

 ただ、今まで1ヶ月以上離れたことがないから、その時の反動が心配だが。


 そして父様と護衛団を乗せ、アングリアコーブを下り、ノーエンコーブへと帰還した。


 その1週間後位だろうか。海運ギルドノーエンコーブ支部長のハーバートさんがやって来たのは。


「実は、ウィルさんに依頼が来ています」


 ハーバートさんは依頼書を渡し、説明をした。

 アングリア大陸の南に、サザンエントランスという港街がある。以前、新型船の開発の助言をするために行ってきたディベロップールに向かう途中に寄港した事もある。


 この街は南方の国との交易の窓口になっている街で、南方からやって来る商品、香辛料、砂糖、茶などが集まってくる。

 それらの商品はどれもこれもアングリア王国では生産できず、従ってかなり効果で重要な商品と位置づけられている。


 で、この港街にトラブルが起きているらしい。


「南方からやって来る船が消息不明になっているのです」


 さらに、船の残骸と思われる木片が漂着していることから、何かに襲われていると判断。しかし、襲っている存在の正体がわからないらしい。


「というわけで、ウィルさんに調査を依頼したいのです。この案件はハンターギルドにも協力を仰いでおりますので、ハンターの方と共同して依頼に臨んでいただくことになります」


「もちろん、僕も海運ギルドに登録している者として依頼を受けたいと思います。ただ、僕の父様の許可をもらってからですけど」


 僕はもう以前の孤児ではなく、モーリス・コーマックの子供という立場になっている。そのため、こうした仕事を受けるときは一言告げておく必要があるのだ。


 結論から言うと、父様の許可は取れた。調査依頼であることと、海運ギルドが自分の命を第一に行動する性格を持った組織であることがその大きな理由らしい。


 そういうわけで僕は準備を整え、3日後に出航、サザンエントランスへと向かった。




 サザンエントランスに無事到着し、海運ギルドで手続きを済ませると、ある人物が声を掛けてきた。


「よっ、船長。また一緒に仕事できるとはな」


「今回もよろしくね」


 今回の依頼、ハンターギルドの協力を取り付けたとハーバートさんから話を聞いていたが、今回もアルフさんとジェニーさんがハンターギルド側の協力者として派遣されてきたらしい。


 そして、さらにもう一人。


「アンバーさんも一緒ですか」


「……そう」


 基本はソロで活動し、パートタイム的にアルフさん達とパーティーを組むアンバーさんも一緒だ。

 つまり、それほどハンターギルドも事態を重く見ているということだ。


「では、明日の早朝に出航します。そのまま数日は海上で調査を続けますので、そのつもりで準備をしてきてください」


 そして各自準備をしに街中へ散っていった。


 翌日の早朝、ヘーゲル号は出航。調査を開始した。


「マストが3本になってるな」


「ええ。いずれ外国への航海も考えていますから。船体内部の方も色々と強化していますよ」


 以前アルフさん達を乗せたときとは姿が変わったヘーゲル号について話しながら船を進めていると、マリーから連絡が入った。


『キャプテン、周囲の海底から強力な魔力反応を感知しました。魔物と思われます』


 その報告を聞いた全員が海中をのぞき込んだが、何もわからない。


「……ちょっと刺激を与えてみる」


 アンバーさんが海中に向かって弱い電魔法を海中に放った。

 こういった刺激を与えることで魔物が何かのリアクションを取るので、その時の反応でどんな魔物かを判断するらしい。


 だが、普段ほとんど表情を変えないアンバーさんの顔が青ざめると、普段の口調では考えられないような大声で叫んだ。


「……伏せて!!」


 すぐさまみんなが甲板に伏せると、海中から何かが勢いよく飛び出してきた。

 それは、想像を絶するような巨大なトゲだった。


「あれは……スティンガー・スティングレイ!」

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