季節行事の到来

 ディベロップールで帆の研究の手伝いをしてからは、あまり大きな動きはなかった。

 基本的に屋敷の中で貴族としての教養を身につけたり、父様が主催する茶会やパーティーなんかに時々顔を出したり。

 時節、コーマック家が所有する海軍の訓練に参加させてもらったり、中小規模の魔物の討伐も行う事もあった。その結果、3000ポイント程度まで溜まった。


 屋敷での生活で絶対に欠かせない話題と言えば、誕生日パーティーだ。

 10月に僕、2月にメアリーの誕生日会があったのだが、想像を絶するほど豪華だった。屋敷のメインホールを使い、ノーエンコーブの有力者達を大勢招いた超ド派手なパーティーだったのだ。

 もちろん、招かれた人の中にトマス先生もいたのだが、トマス先生曰く『ご長男の誕生パーティーはもっとすごかった』らしい。

 子供が好きな父様らしく最初の子供だし、コーマック家の次期当主でもあるから大規模になるのは理解出来るが、内容について全く想像が付かない。


 そして誕生日プレゼントは驚きを通り越してちょっと引いた。

 父様からは金銀宝石で装飾された、実用性もめちゃくちゃ高い望遠鏡をプレゼントされた。装飾はもちろん、高性能なレンズ作成に相当手間と高度な技術がつぎ込まれているので、目玉が飛び出すほど高かったはずだ。


 メアリーは別方面でぶっ飛んでいた。本人曰く『兄様がさらに魅力的になる香水』なるものを贈ってきたからだ。

 材料や効果を聞いても明確な答えが出てこない。しかもメアリーは『イチイのヘビ』のスタチューを持ち(普段はネックレスにしている)、回復魔法が使えるほか医学・薬学に対して才能がある。

 そんな人物が効果をはぐらかすなんて、非常に恐ろしい。

 部屋は一緒なので自分の部屋に持ち込んで保管すれば、寝ている最中に勝手に使われるという可能性も否定できず、結局ヘーゲル号の船長室で厳重に保管することになった。


 当然、メアリーの誕生会も負けず劣らず豪華なものであった。

 僕はメアリーの誕生日の半月ほど前にハンターのアルフさんとジェニーさんと偶然再会し、メアリーの誕生日プレゼントについて相談した。

 すると、二人はたまたま白い大蛇型のモンスターを討伐した後であり、その革の一部を僕に譲ってくれた。

 僕はそれを職人に婦人用カバンにしてもらい、メアリーにプレゼントした。

 すると、『兄さまからプレゼントを頂けるなんて、感激です! 一生大事にします!』と言ってくれたので、プレゼントとしては成功だろう。

 あと、その時のメアリーの顔がすごくかわいく、不意を突かれそうになった。




 とまあそんな感じで生活していたのだが、気付けば3月。そろそろ成年式を受けてから1年が経つ。

 振り返ってみると、早かったような短かったような。濃い1年であったことは確実だが。


 今日もいつも通り家族揃って朝食を食べていた。

 平和な日を予感させる1日の始まりだった。だが、それは破れることとなった。

 きっかけは、食堂にセドリックさんが慌てて入ってきたことからだった。


「お食事中失礼致します。旦那様、コーマック伯爵海軍の偵察部隊が帰還しました。彼らの報告によりますと、奴らが現れたそうです。おそらく、1週間後にはノーエンコーブ近海に到着するとの見立てです」


「わかった。すぐに準備しよう。なるべく、1回の会戦だけで決着を付ける」


 セドリックさんの言う『奴ら』とは、レリジオ教国の連中だ。

 そう、今年も性懲りも無く奴らが攻め寄せる季節がやって来たのだ。


「メアリー、ウィル、しばらく私は仕事が忙しくなってしまう。2人には寂しい思いをさせてしまうかもしれないが――」


「大丈夫です、お父様。毎年のことなので慣れておりますし。それに、ここでお父様が動かなければ、領民の方達が困ってしまいますから」


 メアリーは毎年の事で慣れてしまったのか、意外とあっさりとした返答だった。


 そして僕なのだが、どうしても気になることがあった。


「僕も出撃しなくていいのですか?」


 現在のアングリア王国、いや世界中において最強の船は、ほぼ間違いなくヘーゲル号だろう。領地と領民の安全を守るためにも、使える物は使うべきだし、父様も同じ考えだと思っていた。

 だが、実際は違った。


「ウィルのその意気はありがたいことだと思う。だが、普通の初陣は14~15歳頃で、早くても12~13歳位だ。いくら船の性能が良くて、船の扱いが上手くてもウィルは若すぎるし、親として危険な戦場に出したくない。特に、人と人の争いは魔物相手とはまた違う過酷さだからな」


 父様の僕を思う言葉に、感銘を受けてしまった。

 確かに僕は魔物と散々戦いまくったし、対人戦闘もメアリーを助けたときに経験している。だが、今度の戦いは今まで僕が経験した物とは比較にならない位大規模な戦闘だということはなんとなく察せた。


「……わかりました」


「だがまあ、後始末に参加してもらうかもしれない。そのことだけは頭の片隅にでも覚えておいてくれ」


 そう言い残し、父様は食堂を出て行き、自分の執務室へと向かった。


 そして僕に語った『後始末』。このときは船の残骸の回収や戦闘中に行方不明になった人の捜索などに向かうのだと思っていた。

 しかし、全く別の意味になってしまうことを、このときの僕はまだ知るよしもなかった。

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