武器庫

 部屋に荷物を置いた後、僕はメアリーに屋敷を案内してもらった。

 コーマック伯爵家の屋敷は2つあり、1つは『公邸』と呼ばれている。これは領地の運営に関する機能が集約されており、コーマック伯爵家が雇っている役人が詰めている。

 前世で言うところの『県庁』に相当する所だと言える。

 ちなみに、僕が最初にこの屋敷にやって来たときは公邸の応接室で父様とメアリーと会った。まだ赤の他人であったからだ。


 もう1つが『私邸』で、こっちはコーマック伯爵とその家族が暮らす、プライベートな生活空間だ。僕の生活も今日からこっちを中心に過ごすことになる。

 設備も貴族らしく充実していて、特に海に面し、巨大な港を持つ領地を統治しているだけに水関連の設備は全て最新式だ。

 井戸は手押しポンプ式だし、モーターを使わず水圧だけで作動する水洗トイレやシャワー、さらには巨大な噴水まであった。

 なんでも水属性の学者や魔法使い、技術者などのパトロンをしているらしく、こういった最新技術の道具を手に入れやすい環境にあるらしい。


「それでも、お兄様のヘーゲル号には負けてしまいますけれど」


「あれはちょっと特殊だから、そんなに気にしなくても良いんじゃないかな?」


 ヘーゲル号のトイレはただのトイレではなくシャワー付きだし、シャワーはすぐに温水になる。これらの技術を確立するためには電気やモーターの研究が必要不可欠だと思う。


 とまあ色々メアリーと話しながら屋敷内を歩いていると、セドリックさんとばったりあった。


「ウィル様、ちょうど良かった。実はヘーゲル号の事なのですが、伯爵家専用の停泊所で停泊出来るようになりました。ですので、なるべく早く移動していただきたいのですが」


 コーマック伯爵家は、領地を持っている貴族なので自分の軍隊を持っている。

 しかもアングリア王国の東側なので、季節行事のように毎年襲来してくるレリジオ教国の船団の撃退を一番始めに行う必要がある。

 そのため、コーマック伯爵家が独自に編成した海軍が存在している。

 このコーマック海軍の軍船や父様達が自分たちで使う船を停泊しておく専用の場所がノーエンコーブにあり、その専用エリアにヘーゲル号を泊められるようになったと言うわけだ。


 ちなみに、自前で海軍を持っている関係上、父様を始め歴代コーマック伯爵は海運ギルドに登録しており、海軍の訓練等で海運ギルドと協力関係を結んでいる。


 話を戻して、ヘーゲル号の移動なのだが、まだスケジュール的に余裕がある今のうちにやった方がいいだろう。あまり悠長にしていると、僕に貴族としての色々な習い事が入って来てしまう。


「わかりました。明日にはやっておきます」


 ついでに、ヘーゲル号の強化もやってしまおう。




 翌日、ヘーゲル号を伯爵家専用の停泊所へ移動させた。

 そして移動させた後、一度ヘーゲル号を降りる。


『これより、ヘーゲル号の強化を行います』


 実は、あらかじめヘーゲル号の強化を申請しておいたので、僕達が下船すればすぐに強化が始まる。

 例のごとく一度消滅した後、すぐに出現する。


「お兄様、船体が2階建てになっています!」


「まあ、2層ないと設置出来ないからね、欲しかった設備は」


 今回、メアリーとメイさんが一緒に付いてきていた。

 なんでも、ヘーゲル号がどう強化されるのか気になったらしい。メイさんはメアリーのお付き兼護衛なので来ている。


 2層目へ降りる階段は、食堂と船室があるエリアの廊下にある。

 食堂の階段を降りると、そこには様々や銃や刀剣、使い方がよくわからない珍しい武器などがずらりと並ぶ場所だった。


「ここが、新しく増設した『武器庫』だね」


 必要なポイントは、5000ポイント。さらに船体が2層以上必要という条件がある。2層目の増設は500ポイント必要なので、締めて5500ポイント必要。

 この間討伐したイリエザリガニのボスが1500ポイントで、普通のイリエザリガニは1匹当たり10ポイント。合計10匹つりあげていたので、100ポイントにはなる。

 これを今まで貯めていたポイントと合わせると5900ポイント。そして今回の強化にポイントを使ったので、残りは400ポイントになる。


 さてこの武器庫、簡単ながら試射場があり、そこで武器を色々試すことが可能となる。

 銃器類を一通り試してみたが、やはりヘーゲル号の他の銃火器類と同じで、空気圧で弾を発射していた。そのため、非常に静音制が高い。

 しかし射程距離、威力共に火薬で発射する銃とは遜色ない。むしろこの世界の銃火器のテクノロジーからすれば一線を画す性能なのではないか?


「ウィル様、少々よろしいでしょうか?」


 自分から余り話さないタイプのメイさんが、珍しく自分から話しかけてきた。


「実は、気になるナイフがありまして……」


 メイさんが気になっていたナイフは3種類だった。

 1つは『弾道ナイフ』。バネが内蔵してあり、刃を発射できる機構を備えたナイフだ。

 もう1つは『ワスプナイフ』。刃の先から低温のガスを噴射し、刺した箇所の周囲を凍結・粉砕するという凶悪なナイフ。

 最後の1つが『ナイフ型拳銃』。柄の部分が拳銃になっており、もちろんナイフとしても使用できる。


 これらの説明をすると、メイさんは欲しいおもちゃを見つめるような子供の雰囲気を醸し出した。


「……よかったら、使ってください」


 武器庫の武器は、基本的に僕しか使用できない。ただし、僕が許可すれば他の人も使えるようになる。

 その機能を利用し、メイさんに使用許可を与えたのだ。


 その言葉を聞いた瞬間、普段から無表情な顔が一瞬だけ喜びの表情を浮かべたような気がする。


「ところで、お兄様。なぜ武器庫を設置しようと思われたのですか?」


「ああ、以前海賊と戦ったときに色々思うところがあって……」


 あの時、襲われた船にタラップを出して、メアリーを始めとする伯爵家の人達や船員を救出した。

 だが、タラップを出したことによっていつ海賊が乗り込んでくるか不安だったのだ。

 あとでマリーに聞いた所、仮に敵が乗り込んできたとしても不良品をレーンから吹き飛ばす工場の設備のように、敵だけを選別して魔法で突風を吹かせ海に突き落とすことは出来たらしい。

 それでも、僕は敵がヘーゲル号の甲板に突入したらどうしようかという懸念が常につきまとっていた。

白兵戦は海運ギルドの教育係のヘンリーさんから教えてもらい、そのための釘バットももらったが、今の僕の身体では大の大人相手にまともに戦うのは不可能だろう。


だから、それを補うための武器を用意したくて、武器庫を設置しようと決めたのだ。


「あ、でもこの件に関してメアリーが責任を感じることはないから。ただ初めての対人戦闘で気になる点があって、それを踏まえて改善していきましょうっていうだけの話」


 メアリーにフォローを入れつつ、そう説明した。

 ただ、この時のメアリーは責任感を感じるでもなく、かといってほっとした様子でもなく、あえて言うなら何かを決意したという感じが近い感じがした。

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