研究都市
南北から伸びている半島がある。この2つの半島の先には、見張りとなる砦が建てられており、部外者を立ち入らせない威圧感を放っている。
「ヘーゲル号船長、ウィル・コーマックです」
人形型に戻したスタチューを、甲板に乗り込んできた入港管理係の軍人が持つ石版に乗せる。
「――確認しました。お約束をしている方々は、湾に入って10時の方向の施設にいらっしゃいます」
「わかりました。ご苦労様です」
軍人が自分たちの船に戻ると、僕は再び船尾楼の上にある舵輪を握った。
「メインスル、フォアセイル、トップスル、トガンスル展開、目的地に向かうぞ」
「了解。メインスル、フォアセイル、トップスル、トガンスル、展開完了。ヘーゲル号、発進します」
そして僕は半島の間を通り、湾内に進む。
そこから軍人の案内通り、10時の方角に船を向ける。
なぜこんなに軽微が厳重なのかというと、この街の特殊性に理由がある。
ここはアングリア大陸の西にある街『ディベロップール』。巨大な湾を持ち良港としてのポテンシャルを持つが、一般的に想像される港としての機能はほとんど無い。
と言うのも、前述した南北から伸びた半島によって外海との出入り口が制限されている。
この地形に目を付け、アングリア王国が高い機密性を必要とする施設を集めた街を造ったからだ。
どういう施設かというと、新技術の開発を行う研究施設。特に海に面しているため航海やそれに関連する研究機関が多い。
そして、そこから生まれた新技術を漏洩させないため、半島に砦を築き、湾への出入りを制限しているのだ。
ではなぜ僕がそんな場所にいるかというと、海運ギルド経由で呼び出されたからだ。
ちなみに、メアリーは連れてきていない。メアリーを連れてくると、しばらくの間屋敷には父様一人になってしまってかわいそうだからだ。
あと、僕とメアリーは基本的に同じベッドで寝ている。僕もメアリーもまだ肉体関係を築くほど身体が出来ていないのでそういうことはまだしていないが、父様は将来のために子供を作って欲しいらしいし、メアリーもそれに積極的なのだ。
良い機会だからついでに言っておくが、この世界の人々は僕の前世に比べると意識が非常に早熟だ。
10歳程度で成年と見られる事が一番大きいが、特に貴族や金持ちの子は早熟だ。跡継ぎが家の存続や家内政治に深く関わるため、一般人の子よりも意識が早熟になる。
もちろん、メアリーもとっくに子供の正確な出来方を当然のように知っている。だから僕が風呂に入ってくるときに当たり前の様に乱入してくるし、ベッドに入ってもべたべた触ってきて僕の気を引こうと必死になっている。
でも、僕は前世から恋愛経験が皆無なので、ちょっと困る。別に嫌っているわけではないし、むしろメアリーのことは大切に思っている。ただ、反応の仕方がわからないのだ。
なので結局、メアリーが疲れて寝てしまった頃にちょっと距離を取る。ベッドが広いからこそ可能なのだ。
ところが、ヘーゲル号だと話が違う。シャワー室は狭いし、ベッドも小さい。ヘーゲル号の拡大と共に部屋も大きくなり、同時にテーブルや家具類も大きくなったり少し高級になったりしている。
ベッドも同様だが、それでも屋敷のベッドに比べると小さすぎる。これでは僕の心理的に適切な距離を取って寝ることが出来なくなってしまうのだ。
だから、『父様が寂しがるから』という理由をものすごく強調して留守番してもらったのだ。
さて、そうこうしている内に目的地に着いた。
その場所は巨大なドッグで、あらかじめもらった手紙に従ってドッグに入り、指定された場所に停泊する。
「帆を畳め、錨を降ろせ。停泊だ」
『帆の収納完了。投錨完了、タラップ展開完了。ヘーゲル号、停泊完了しました』
タラップから降りると、儀礼用の制服を纏った軍人達が整列して道を作っていた。
僕がドッグの床を踏むと同時に、軍人達はバッと音を立てて一斉に敬礼した。
その光景に驚きつつ、軍人の道を進む。
突き当たりには、一組の男女がいた。
「初めまして、ウィル・コーマック様。海運ギルドより開発チームのリーダーを任されている、ブリジットと申します」
「アングリア王国海軍技術士官を務めています、レナードと申します。海軍側の開発チームのリーダーを拝命しております」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
女性の方がブリジットさん、男性の方がレナードさんだ。
二人とも海運ギルド・海軍共同開発プロジェクトのリーダーを任されている。
そして、僕が呼び出された理由というのは、このプロジェクトに対してアドバイスを送るためだ。
「では、早速見せていただきましょうか。試作船を」
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