船の強化・2回目

 サプライトハウスの港に戻ってきた僕達は、レインサーペントを討伐したことを海運ギルドとハンターギルドに報告。

 すぐにハンターギルドの職員がやって来て、解体場へとレインサーペントの遺体を運んで行った。

 そこから取れたレインサーペントの素材の売却益が僕達に支払われるのだが、今回はちょっと違う。


「鱗とか皮とか牙とか、装備の材料になるのは少しもらうからな」


 ハンターの常識として、強力な魔物の素材は自分の装備を充実させるため、きちんと自分達の分を確保しておくらしい。装備の充実が戦闘力、ひいては自分の命を守る事に繋がるからだ。


 そして今回の件だが、海運ギルドの調査によって全てが明らかになった。

 実はアングリア大陸の西側から異変が始まっていた。数ヶ月前、本来なら南で見られる魚や魔物が確認されるようになった。しばらくすると魔物も魚も数が激減。そして嵐がやって来て、それが過ぎ去ると魚や魔物が徐々に戻ってきたらしい。

 この事から考えると、レインサーペントはアングリア大陸の西の海を北上。そのまま東側へと周り、サプライトハウス沖までやって来たと考えられる。

 その結果、レインサーペントを避けるように魔物達が南下を開始。魚たちがその魔物から逃げようとしたため、ノーエンコーブの離島地域から魚が姿を消したのだ。

 ついでに言うと、僕がウールコーストからノーエンコーブへ帰るときに遭遇した低気圧。あれの速度が急に速まったのも、レインサーペントの雨雲を引きつける性質によるものである可能性が高い。


 以上が、各調査結果から海運ギルドの出した結論だ。


 そして結論が出たと言うことは。


「僕達の依頼はこれで終了ですね。僕はノーエンコーブに戻りますけど、アルフさん達はこれからどうするんですか?」


「情報を集めながらしばらくここで活動するさ。面白そうな情報や依頼があったら、そっちに行くつもりだ」


「ノーエンコーブにはよく行くから、その時はまたヘーゲル号に乗せてね。依頼料はちゃんと話すから」


 そしてアンバーさんは。


「……少しアルフ達の手伝いをしてから……また別の町に行く。私がノーエンコーブに行ったときは……また会おう」


「はい。ですけど、僕は船乗りなので都合良く会えるかどうかわかりませんけど」


 船乗りは、船で行けるところならどこへでも行く。何日、下手すれば何ヶ月もかかる場合もある。

 だから3人がノーエンコーブにいるときに僕がいる保証はどこにもないが、タイミングが良ければ会いたいと思う。それくらい好感が持てる人達なのだから。


 そして別れの挨拶を交わした後、僕はノーエンコーブへと帰った。




 ノーエンコーブへ帰港した翌日、僕は再びヘーゲル号の艦橋へと足を運んだ。理由はもちろん、ヘーゲル号の強化だ。

 タブレットを起動し、まずはポイントの確認だ。レインサーペントの討伐についてだが、トドメを刺したのは僕ではなくアンバーさんだ。

だが、ヘーゲル号に乗っている人が倒してもポイントはもらえるらしい。仮に船団を組んでいて、魔物を倒したのが別の船だったとしても魔物討伐に協力すればポイントを獲得できる。

 今回のレインサーペント討伐報酬は5000ポイントだった。


 そして絶対に欲しい設備がある。


「船室は早めに作らないと……」


 今回の依頼では、船室が無かったせいでアルフさん達を船内で泊めることが出来ず、連続した調査が出来なかった。今回は港に日帰りできる距離で活動できたから良かったが、今のままでは人の移送依頼を受けることは出来ないし、距離的に海上で一夜を明かす必要がある依頼も受託不可能だ。

 だが船室を作れば、急に同行者が出来ても泊める事が出来る。今以上に受けられる依頼の選択肢が増えるのだ。

 しかし、船室を作るには船の長さが45メートル以上は必要。前提となる投資が結構かかるのだ。


 だが、前回の強化で使わなかった100ポイントと合わせて5100ポイントもある今なら、それくらい支払える。


 値段は、プラス5メートル当たり200ポイント。25メートル以上増やす様にになると必要ポイントが値上がりするのだ。

 現在は20メートルなので、45メートルまで増やすとなると5段階増やす事になる。つまり1000ポイント必要。

 ここで初めて船室の追加を選べる。船室は5部屋で1000ポイント。勿論カゴに入れる。


「シャワールームを追加するか」


 シャワールームを追加すると、船長室を含めた全ての部屋でシャワーが設置される。

 この世界は、実用的な造水機は存在しない。どうやら水属性の学者や技術者を中心に研究をしているという話を聞いたことがあるが、まだ実験段階だ。だから航海において真水は貴重だし、従って航海中に体を洗うのは無理だ。

 でも、シャワーを浴びて気分をスッキリさせストレスを軽減させるのは意味があることだと思うし、そもそも船は密閉された空間なので衛生に気をつけないとあっという間に病気が広まってしまう。その意味でもシャワーは重要だと思う。

 今、僕はアングリア王国内を中心に活動しているが、いずれ国外への航海を行うことを視野に入れている。そのために必要な投資だと僕は考えているのだ。


 シャワールーム設置は1500ポイント。今回の強化で必要になるポイントは合計で3500ポイント。十分支払える。

 残りの1600ポイントは、緊急で必要になった時のために取っておく。使わなくとも、次にポイントが入ったときに使えるし、何ならショップ機能で何か買ってもいい。


『強化申請を受諾しました。船体が改造されますので、一度下船してください』


 前回の強化同様、僕は一旦ヘーゲル号を降りる。

 そしてまた前回と同じように、船が一旦消えた後にまた現れた。


 強化されたヘーゲル号は20メートルから45メートルと2倍以上大きくなったため、サイズの違いが明確になり迫力が出る。

 ちなみに、この世界の造船技術だと最大でなんとか30メートルなので、もう世界一大きな船になった。


 船体内の空間も違いが出た。フォアマストの扉から入ると食堂兼キッチンへと降りられるが、メインマストの扉から船体に入ると廊下に出た。

 船尾方向に扉があるが、これは船長室。つまり、食堂と船長室の間に廊下がねじ込まれた形だ。

 廊下の左右には扉が。右舷側は3つ、左舷側は2つ。いずれも増設した船室だ。

 船室は狭いながらも生活空間を快適にしようとする努力が見られ、ベッドの下にタンスとして使える引き出し、机とイス、壁に埋め込まれる様に設置された小さなクローゼットがある。

 そして船室内にさらに扉があり、そこはトイレとシャワーブースがある。ちなみに、石けん類、タオル、トイレットペーパー、清掃用具は最初から付いており、足りなくなると自動的に補充される。

 それらにこだわりがあれば、ショップ機能でポイントを支払って買う必要があるが。


 何はともあれ、これでまた船の設備が充実したし、出来ることも増えた。

 さらに船員としての仕事がはかどるだろう。

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