2人のハンター

 ハーバート支部長から依頼を受けた翌日、サプライトハウスへ向けて出航した。

 やはりマストを2本にしたおかげか、以前よりも速度を出せた。

 その結果、数時間程度ながら航海時間の短縮に成功した。


 到着してから海運ギルドサプライトハウス支部へ寄港手続きと調査依頼の遂行に入ることを報告し、ここでの海運ギルドでのやるべき事は終わった。

 本番はここからだ。


 次に、僕はハンターギルドへ向かった。

 ハンターギルドの建物は海運ギルドとは看板以外に大差は無いが、建物内に入ると空気が違った。

 海運ギルドは船員が多いので荒くれ者が多いのだが、中には貴族や商人として船を持っており、船の管理・運用のために海運ギルドに入っている人も多い。そのため、幾分か荒々しさが中和される。

 だがハンターギルドは、空気の荒々しさが海運ギルドとは全く違う。さらに荒っぽいのだ。

 戦闘が多い仕事だし、マイルドな雰囲気の商人や職人は材料の仕入れに来る人しかいないため、ガチな戦闘系の割合が海運ギルドより多いのだ。


 正直入るのに勇気がいるが、仕事なので避けるわけにも行かない。

 受付カウンターに行き、海運ギルドの依頼書を見せながら用件を言う。ちなみに、受付担当の人は普通のお姉さんだったのでちょっと安心した。


「すみません、海運ギルドの者なのですが、今回の依頼に協力してくださるハンターの方と合流したいのですけど」


「この依頼は……わかりました。この依頼に関わる方々は、あちらにいらっしゃいまね」


 受付のお姉さんが示した方を見ると、2人の若い男女がいた。

 男性の方は竹製のネックレスを身につけ、女性の方はイチイらしき木で出来たネックレスをしている。おそらく、スタチューを変化させた物だろう。


「すみません、海運ギルドから来たウィルと言います。海の魔物調査に同行してくださるとお聞きしたのですが」


「お、あんたが海運ギルドの。ああ、そうだぜ。俺はアルフ」


「あたしはジェニー。よろしくね」


 お、結構人当たりが良さそうだ。この2人とは上手くやって行けそうだ。

 船上生活において、人間関係ほど重要な事は無い。船というのは一種の閉鎖空間で、一度出港すると次に寄港するまで船を降りられない。

 そのため、一度人間関係がギスギスすると船の空気が悪くなり、それが原因で思わぬ事故に繋がるからだ。

 今のところ、人間は僕一人しかいないので壊れる人間関係はないが。言ってて悲しくなってくる。


「よろしくお願いします。では早速、調査計画についてですが――」


 そして海図と共にしばらく話し合い、ある程度調査計画が決まった。

 とは言っても調査する海域をある程度決める程度だが。


 そして話がまとまり、出航時間も決まったところで今日はお開きになった。

 僕もしばらく滞在する宿へチェックインし、翌日に備えた。




 翌日の午前7時。


「これより海洋調査に向かう。出航だ!」


『タラップ収納完了。錨の巻き上げ完了。フォアセイル、トップスル、トガンスル、メインスル、展開完了。周囲の状況、異常なし。ヘーゲル号、出航します』


 そして帆に風を受け、ヘーゲル号は動き出した。


 僕はいつものように船尾楼甲板に立って舵輪を握る。普段なら一人でマリーの助言を聞きながら船を操縦するが、今日は違う。


「へぇ、これが精霊から贈られた船かぁ」


「見たことのない構造だし、速度も速いね。これまで乗った船の中でも最高の船だね!」


 今日は、魔物ハンターのアルフさんとジェニーさんが乗っているのだ。正直、この二人がいなければまともな調査は出来ない。

 それよりも、どうやら二人は船には頻繁に乗っているようだ。


「お2人は何回も船に乗ったことがあるんですか?」


「おう。俺達は水の魔物を専門に狩るハンターだからな。海の船も河の船も乗ったことがあるぜ」


 そうだったのか。だから今回の依頼に抜擢されたんだな。


「なるほど。最初から水の魔物専門で野郎と決めていたんですか?」


「まあな。成年式で魔物を釣り上げるほど上手い釣りの才能があるってわかったからな。それから8年間、ずっと水辺を中心に魔物を狩ってきたぜ」


「でも、アルフの才能でも魔物が大きすぎると手に余るんだよね。あたし、アルフの2年後に成年式で弓の才能があるってわかったからさ。2人で組めば楽になるし、もっと活躍出来ると思ったしね」


 2人の才能がお互いを上手く補完できたのか。

 ところで、会話の端々から気安さというか、一種の親しさのような物が感じられるんだが。


「もしかして、お2人は昔からの知り合いですか?」


「そうそう。いわゆる幼馴染ってやつ? 年齢は2歳離れてるけどね。ハンターとして組んでいるのは、才能の組み合わせが良かったってのもあるけど、小さいときから仲が良かったからチームワークが良いんだよね」


「ああ。俺もジェニーが来てくれて助かったって思ったぜ」


 とハンター2人の関係を中心に雑談したところで、調査予定の海域に入った。

 調査方法は簡単。調査海域でアルフさんが釣りをする。そして釣り上げた魚や魔物を記録し、それをまとめて海運ギルドとハンターギルドに報告するのだ。

するのだが……。


「釣れねぇ……」


 全く釣れない。

 アルフさんの釣りの才能が本当にあるのか疑わしくなる位に全く釣れない。


「おかしいなぁ。アルフ、いつもなら遅くても30分以内に釣るはずなのに……」


 これは不調と言うより、異常のようだ。ジェニーさんもこの異常事態に怪訝な顔をしている。

 その時、マリーがある情報を持ち込んだ。


『キャプテン、船の周囲の海中をサーチしましたが、魔物どころか魚もほとんどいません。今の状態では、どんなに高い釣りの才能を持っていたとしても、何かを釣り上げるのは不可能かと』


「そんなバカな! 俺はこの辺にも何度も釣りや狩りに来ているんだぞ!? こんな事、今までなかった!!」


 声を荒げるように驚愕するアルフさん。

 だが、この情報はある意味貴重だった。


「アルフさんの証言から推測すると、少なくともこの海域にいるはずの魔物や魚が『いない』という異常事態が発生していることになります。それがわかっただけでも収穫だと思います。

 ただ、まだ情報が足りません。今後も調査を継続して、他の海域にも異常がないか調べた方がいいのでは?」


「……ま、確かにそうだな」


「うん。あたし達には、それしか取れる手立てが無いかも」


 こうして、調査初日は釣果ゼロという結果に終わった。


 その後6日間、海域や時間を変えつつ調査を続行したが、釣れた物はなかった。

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