離島へ

 試験に合格したが、その週は休みにした。

 船乗りは何日、下手すると何ヶ月も船に乗り、その時間が勤務時間とも言える。つまり、休日なしの連続で仕事しているのと同じなのだ。

 その代わり、休みもまとめて取る。これが船乗りの働き方だ。

 嵐の切り抜けで大変だったこともあり、もう今週は全て休みにしたのだ。


 そして週明け。

 海運ギルドに入り、依頼を探す。

 依頼を探す場所は、船主用と船員用で異なっている。船主は実際に船を動かすので、海運ギルドに申し込まれた客からの依頼を公開している。逆に船員の方は、船主からの船員募集の情報を集めている。

 僕はもちろん、船を持っているので船主用の依頼だ。


 現在受付をしている依頼情報が載った紙を収録してあるファイルがあり、それを開いてよさそうな依頼を探すのだ。

 開いてみると、季節風の影響をもろに受けていることが一目瞭然だった。

 今は北から南に風が吹いているので、南方に船を進ませるような依頼が多い。北に進む依頼を出しても、まず達成は不可能だ。だから、多くの人は季節風が変わる時期まで待っているんだと思う。


「お、これが良さそう」


 選んだのは、ノーエンコーブの東にある離島の1つ、フィッシャイズ島への物資の輸送だった。

 依頼主は、ノーエンコーブ領主コーマック伯爵家の離島管理担当の方。フィッシャイズ島の支援物資を運んで欲しいらしい。

 報奨金は、前金5万リブラ、成功報酬10万リラ。普通の船なら小型船でも報酬の分配で結構減ってしまうが、僕なら一人だけなので総取り。結構おいしい。


 そういうわけで、僕はこの依頼書を取り外し、受付に持って行き依頼を受諾。

 そして出港準備に奔走した。




 そして2日後。

 全ての準備が整い、現在は輸送物資の搬入中。これが終われば出航となる。


「失礼。あなたがこの船の船長ですか?」


「はい、そうですが」


 声を掛けてきたのは、身なりがしっかりした30代の男性だった。


「失礼しました。私、コーマック伯爵家で離島管理担当官をしております、テレンスと申します。あなたが受けた依頼主でもあります」


 なんと、この依頼を出した人が直々に挨拶に来た。


「しかし、あなたが例の船を授かった人物ですか。しかも海運ギルドの講習は優秀、試験も歴代最高記録を出し、先日の嵐を初の航海でありながら突破できた。それを成年式直後の少年が達成するとは……」


「いえ、ただ必死にやってきただけです。命がけの職業ですからね。それにしても、どうしてそこまでの情報をご存じなので?」


「領地運営には、まず情報を得ることが不可欠ですからね。とくに成年式は今後の領の運命を占う重要な式典。誰がどのようなスタチューを授けられたかをチェックするのは、どの領でも行っています。もちろん、目的外の使用はしませんし情報を漏らすようなことは断じてしませんが」


 あ~、こういう体制が整っているから、僕のことも知っていた訳か。

 ただ、この世界にしては珍しく個人情報の管理をしてくれるのはありがたい。ライバルの貴族に知られるとまずいから機密扱いにしているだけかもしれないが。


「今回の依頼ですが、フィッシャイズ島の命運が掛かっているといっても過言ではありません」


 そしてテレンスさんは、めちゃくちゃ熱く事情を語り始めた。

 なんでも、今離島地域で漁獲量が減少しつつあるらしい。

 原因は不明。だが、漁業を生業にしている離島の人々にとっては死活問題だ。

 だから離島の人々を救うため、支援物資を送るのだそうで、色々な島への輸送依頼を海運ギルドに出したらしい。

 僕が受諾したフィッシャイズ島も、その内の一つだ。


「実は、私は離島地域出身でしてね。地元のことなので、今回の事がかなり気になっているのですよ」


 なるほど、故郷だからこんな熱くなってしまう訳か。

 なら、期待に応えないと行けないな。


「任せてください。かならず、依頼は遂行しますので」


 そして物資の搬入が終わり、受け取り終了の書類と出航手続きの書類にサインをすると、僕はそのままヘーゲル号の船尾楼甲板に乗り、舵輪を握った。


「帆を全開! 錨を上げろ! フィッシャイズ島へ向けて出航する!!」


『帆の展開――完了。タラップ収納――完了。錨巻き上げ――完了。周辺状況、異常なし。ヘーゲル号、出航します。目的地、フィッシャイズ島』


 こうして僕は、また海へ飛び出した。

 不漁に苦しむ島民を救うために!

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