試験結果
『お疲れ様でした、キャプテン。ノーエンコーブ港に到着しました』
……うん? ああ、そうそう。確か嵐の中、徹夜で船の制御をやってたから、反動で寝てしまったんだっけ。
「マリー、今何時だ?」
『午前11時です。到着予定時刻より4時間遅れで到着です』
やっぱりか。嵐のせいで到着が遅れるとは思っていたけど、2~3時間程度だと思っていた。
意外とがっつり遅れるもんなんだな。
船長室から甲板に出て、海運ギルドに向かおうとした。
でもその前に、ある人物が桟橋付近で待っていた。
「おう、坊主。無事だったか」
「ヘンリーさんじゃないですか」
僕の新人講習を担当してくれた、ヘンリーさんだった。
「嵐がノーエンコーブを通って北上したからな。もしかしたら、ヘーゲル号が航海している最中に直撃するんじゃねぇかと思って心配してたんだ」
「実際に嵐に遭遇しましたよ。なんとか切り抜けましたけど」
「初めて嵐を一人で抜けられるなんてすげぇな。ま、無事なら何より。ハーバートも坊主のことを心配していた。さっさと顔を見せてこい」
そして海運ギルドに到着。早々に連行され、会議質でハーバート支部長と二人っきりになった。
「――そうですか。無事に嵐を切り抜けられたと」
「はい。マリーの能力で低気圧自体は出発当初把握していましたが、当初の予測では航路上に直撃するのはその日から7日後でした。ですが、ウールコーストを出発してから急に速くなったそうで……」
「そうだったのですか。あの嵐の不自然さはこちらでも把握しています。領内の気象観測所の分析でも、異常に速い嵐であったと報告されているそうですので」
そうだったのか。どうやらあの嵐、何かありそうだ。
ただ、いくら考えてもどうすることも出来ないし、今は頭の片隅に置いておくしかないか。
「まぁとにかく、まずは手続き関連が先ですね。これを」
ハーバート支部長から渡されたのは、2通の書類だった。
一通は帰港手続きに関する書類。拠点にしている港に無事帰って来れたという報告書だ。
もう一通は積み荷の受け渡し書類。依頼で受け取りに行った積み荷を引き渡すための書類だ。
この2通とも、僕が指定したところにサインするだけでいい。
「後は実際に積み荷を受け渡せば正式に依頼達成ですが……少々早いですが試験結果を発表しましょう」
最初に合否を発表せず、ハーバートさんは講評から入った。
「ローズ支部長から報告を受けましたが、入港手続きをしていたときに眠気で意識がうつろで、手続き終了と同時に宿直室を使わせてもらったそうですね? 今の時期のウールコーストだから親切にしてもらえましたが、多くの海運ギルドではまずあり得ない対応です。
それに、低気圧の発生を把握していながら、それを過ぎ去るまで出航を延期することをしなかったのも問題です。だから大変な目に遭ったのではないですか?」
次々に出されるハーバート支部長からのダメ出し。ここまでマシンガントークで批判されると心が折れそうになる。
これは、落ちたか?
「……とまぁ色々と揚げ足を取ってしまいましたが、ウィルさんは船乗りにとって最も重要な事を達成しました。それは、生きて帰ることです。
船乗りは危険な仕事で、常に命の危険と隣り合わせです。なので、どんな手段を使っても生き残る方法を模索し続けなければなりません。例え依頼を失敗しても、生きてさえいればいくらでも挽回できるのですから。
ウィルさんは、生きてノーエンコーブに帰ってきました。それだけで、船乗りの素質は十分と言えます。なので、ウィルさんの最終試験は合格。明日から依頼を受けられますよ」
「……いいんですか?」
思わず聞き返してしまった。
あれだけ批判していて不合格の空気が濃厚だったのに、合格宣言を出してしまうんだから。
「はい。さすがに最初から依頼を遂行しようともせずにあきらめてしまうのは論外ですが、とにかく生きて帰ることが合格条件ですから。それに加えて依頼達成、さらに嵐を無事に乗り越えたともなれば、文句の付けようがないですよ」
「ありがとうございます!!」
こうして、僕は正式に海運ギルドのギルドメンバーとして登録する運びとなった。
その後、ヘーゲル号で積み荷の受け渡しを終えた後、僕はお土産を持って孤児院に帰った。
「ウィル君! よかった、天気が荒れていると聞いて心配したんですよ」
「すみません、先生。でも、こうして無事に帰ってこれましたから」
トマス先生はすごく心配していたようで、僕が帰ると同時に泣きそうになりながら喜んでくれた。
本当は港で僕の到着を待っていたかったそうだが、神殿のナンバー2という立場から仕事が忙しすぎて出来なかったそうだ。
ちなみにお土産の羊毛のぬいぐるみだが、案の定小さい子供達の人気のおもちゃになった。
そしてローズ支部長からもらったラム肉の香草焼きセットの余りだが、これは本日の夕食となり、孤児院のみんなでおいしくいただきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます