初戦闘
ノーエンコーブ港を出港してから3日。
『キャプテン。まもなくフィッシャイズ島に到着します』
「了解。停泊所に接近次第、停泊準備に取りかかれ」
僕は目的地のフィッシャイズ島に無事到着した。
一般的な船なら7日は掛かるそうだが、ヘーゲル号は快速なので3日で到着した。
「停泊作業開始。帆を畳め、投錨せよ!」
『帆の収納、完了。投錨、完了。タラップ展開、完了。停泊作業、全て完了しました』
そして僕は船を降り、この島の代官所へ向かう。
フィッシャイズ島はノーエンコーブと同じくコーマック伯爵領で、規模も小さいので海運ギルドの支部も置いていない。
そのため、代官所が海運ギルドの仕事を代行しており、寄港手続きや荷物の受け渡しもここで行う。
というわけで、僕は代官所でその手続きを行った。
すると、その最中に男性が飛び出してきた。この男性、どうもフィッシャイズ島の代官らしい。
「もう物資が届いたのですか!?」
「ええ、僕の船は快速ですので」
「ありがたい。この村はもう限界でしたので、早く着くに超したことはありませんよ」
代官の反応だと、どうもこの島は相当切羽詰まっていたらしい。
「それで、不漁の原因はわかっているのですか?」
「いえ、それが全然。領主様の方から、原因究明のため学者を派遣すると伝えられているのですが、まだスケジュール調整中の様でして……」
まだしばらく支援頼みという事か。力になってあげたいのは山々だけど、僕に出来ることは船を動かすことぐらい。僕の出る幕ではないな。
ただ、フィッシャイズ島は漁業の他に釣り好きが集まる島として知られており、観光業にも影響するので行楽シーズン前までに原因を究明しておきたい所だそうだ。
その後、積み荷の受け渡しを終え、そのまま島の宿に一泊。
今のヘーゲル号には入浴施設がないので、久しぶりに身体を洗うことが出来て身も心もスッキリ、気持ちを新たに出航できそうだ。
そして翌朝。
「よし、ヘーゲル号、出航だ!」
『了解。出航します』
大勢の島民に見送られ、ノーエンコーブ目指して出航した。
ここまでは、順調に航海出来た。
ところが、次の昼過ぎ頃。
『キャプテン、北東方向より魔力反応を計測。魔物と思われ、猛スピードでこちらに近づいています。接触予測、およそ10分後』
「逃げ切れるか?」
「不可能と判断。撃退するか仕留めなければ状況を切り抜けられません」
とうとうこの日が来たか。もう少し先の話かと思ったが、もう魔物との戦闘を行わなければならないとは。
「わかった。覚悟を決めた。戦闘準備! 舵輪を艦橋に戻せ。砲塔準備。銛弾を装填しろ!」
『了解』
そして戦闘準備を終え8分が経過。
『魔物の識別が完了しました。ラムヘッドシャークと判断。数は1です』
ラムヘッドシャーク。シュモクザメを何倍にも大きくしたような魔物だ。
その特徴的な頭は感覚器であり武器。下手な金属より硬く、簡単に船底に穴を空ける。小型船なら木っ端みじんだ。
故に、『破城槌』を意味する『ラム』の名を冠されている。
そして僕は、ラムヘッドシャークがやって来た方角が気になっていた。
北東と言うことは、離島地域の北だ。もしかして、こいつが不漁の原因なのか?
まあ、ラムヘッドシャーク自体は世界中の海に生息している魔物だし、たまたまかもしれない。今はこれから行われる戦闘に集中すべきだ。
僕は船を2時の方向に向け、ラムヘッドシャークを船の右側面に収めた。
「右舷、一斉射!」
『右舷、斉射します』
ポポポポポンとヘーゲル号の大砲独特の発砲音が鳴り響く。
『砲弾、全て外しました。回避行動と取られたようです』
敵は素早い。どうやら相手は、発砲を確認してから余裕で回避できるほどの俊敏さがあるようだ。
そして次の瞬間。
ドンッ!!
「どうした?」
『右舷に衝撃発生。魔物の突進攻撃を受けた模様。損傷はほぼなし』
普通の船なら穴が空いてもおかしくないのに、さすがは精霊樹の炭素繊維製と言ったところか。
だが、その後何度やっても弾は命中せず。しかもラムヘッドシャークもヘーゲル号の特性を学習してきたようだ。
『キャプテン、敵は右舷の同じ箇所を攻撃している模様。現在、軽微ですが船体に小さいへこみも発生。このまま攻撃を受け続けるのはまずいかと』
野郎、単純な攻撃は効果が無いと学習して一転集中攻撃に転じたか。
確かにまずいが、冷静になって考え方を変えてみれば、チャンスとも言える。
「マリー、帆を全て畳め。停船だ。それと同時に敵の突進ルートを割り出せ」
『了解』
「そしたら最も命中率が高い位置に照準を合わせろ。発射のタイミングはお前に任せる」
『了解、キャプテン』
船は停まり、マリーが演算を開始した。
そして数十秒後。
『右舷、一斉射します』
ポポポポポンという発射音。そのすぐ後、海中でジタバタと暴れる音が聞こえた。
『全弾命中』
「よし、そのまま畳みかけろ」
おっしゃあ! 作戦成功だ!!
相手が同じ場所しか狙わないのなら、こっちが狙いやすく隙を作ってやれば相手の動きが手に取るようにわかる。そこでタイミング良く銛弾を撃ち込んでやれば、命中すると思ったんだ。
こういう予測はマリーの方が得意なので、その辺を任せればさらに作戦成功率が上がる。
何度か発射音がした後、勝負がほぼ決した。
『敵の動きが少なくなっています。瀕死状態と判断』
「よし、次の銛弾にロープをくくりつけておけ。とどめと同時に回収する」
『了解』
そして次の発射音が鳴り響いた。
『生命反応消失。ラムヘッドシャーク、絶命しました。回収作業に移ります』
甲板に引き上げられるラムヘッドシャークの遺体。
ギルドの図鑑で見たイラストより何倍も迫力がある。
だが、僕はあることに気づいた。
「もしかして、このままノーエンコーブに戻らなきゃいけない?」
『はい。当船には解体設備はありません。また、キャプテンも解体技術を持っていないかと記憶しておりますが』
これはまずい。適切に解体しないと魔物が腐る。
しかもサメ類はアンモニア臭がすごいと言うし、このまま後2日もこのままだと確実に異臭が発生する。
「早くノーエンコーブに戻るぞ! プロペラも回せ、全速力だ!!」
『了解。帆を全開、プロペラ、全力で回します』
こうして僕の初魔物戦闘が終わったが、なんとも締まらない終わり方になってしまった。
ちなみに、全力で船を飛ばした結果、翌日の早朝にはノーエンコーブ港に帰港出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます