航海中・往路

「マリー、現在の状況は?」


『予定航路を順調に進んでいます。風は順風。このペースで進んだ場合、あと18時間で目的地に到着します』


 朝7時に出航して、現在は午前9時。今から18時間だと夜の3時になってしまう。

 今の身体では夜更かしが難しく、午後10時には完全に眠ってしまう。このまま船中泊になってしまいそうだ。


『天候は快晴。南東沖に低気圧が発生していますが、予測では航路上に到達するのはおよそ1週間後。今回の航海には問題ないと考えます』


「確かに、今回の依頼の性質から言って、そこまで時間が掛かるわけじゃないだろうし」


 単純に荷物を受け取って戻ってくるだけなのだ。しかもヘーゲル号は超快速とも言える速度を出せるので、3日もあれば終わらせてしまう。


「問題は、深夜の入港だな。手続きは僕じゃないと無理だから」


『はい。アラームを設定しておきます』


 どの港でも、営業は基本的に24時間だ。

 航海の状況等によって深夜にようやく到着するパターンは少なくなく、場合によっては一刻も早く上陸しなければならない場合もあるため、24時間体制を取っているのだ。


 そのまま順調な航海を続け、12時になった。


『キャプテン、そろそろ昼食を取られては?』


「そうだね。じゃ、マリー、後はよろしく頼む」


『了解しました』


 今回、海図をギルドからもらっているためマリーの自動航海が使える。

 なるべく僕が舵を取っていたいが、こういうときはマリーに任せる。


 マストの扉を開き、船体内の食堂に降りる。

 そこに併設されているキッチンで簡単に料理を作った。

 メニューは、野菜を適当に切ったサラダ、それとサンドイッチ。具はハムチーズとゆで卵を潰した物だ。

 飲み物はハーブティー。これでしばらく休憩を取る。


 昼休憩が終わると、また船尾楼甲板に登り操船する。

 そのままタブレットに表示された海図に沿って航海を日没まで続けた。


『キャプテン、そろそろ日没です。お休みになられては?』


「そうする。明かりは付けとけよ?」


『了解です、キャプテン』


 ヘーゲル号は、各船室や船倉は勿論、甲板にも照明が就いている。これは暗い空間で明かりを確保し、周りや手元を見やすくするための物だ。つまり室内灯やキャンプで使うランプと役割はほぼ同じ。

 それとは別に、舳先の根元の両脇にライトが搭載してある。これは車のヘッドライトと同じく前方を見るための物だ。

 安全確保のため、夜間の明かりは特に理由が無い限り着けておく必要がある。

 ちなみに、どの照明も魔力をエネルギーにして稼働する魔力灯だ。


 そして僕は昼と同じく食堂に降り、夕食を取る。

 今回はパンとベーコン入りスープ、魚の塩焼きだ。

 ヘーゲル号は冷蔵庫を備えているので、新鮮な食べ物を持って行ける。肉類を持って行くという選択肢もあったが、この世界は肉に合う香辛料が高いため、塩だけでおいしく食べられる魚を選択したのだ。


 そして船長室に戻り、航海日誌を書く。航海日誌の書き方も講習で習ったので、あまり苦も無く書き終わった。

 それが終わると、午後9時過ぎ。そろそろ眠くなってきたのと仕事のキリが良かったので、寝間着に着替えて船長室のベッドで就寝した。




『キャプテン、ウールコーストに到着しました。入港手続きを取ってください』


「……うーん? もうそんな時間か……」


 深夜に起こされた。

 熟睡中でカンベンしてくれと一瞬思ったが、これはあらかじめわかっていたことだったので、あきらめて服を着替え、そのままフラフラと海運ギルドの深夜営業窓口へと向かう。


 ただ、そこからは半分寝ていたのかよく覚えていない。

 書類はなんとか書けたのは覚えているが、後は受付の人っぽい人に案内されて、ヘーゲル号に戻らなかった……ような気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る