砲撃訓練

 多少のトラブルはあったものの、出航から1時間で目的地に着いた。

 場所はノーエンコーブの沖にある島で、その周囲には何個か岩が海底から生えている。


「ここは、海運ギルドが所有している訓練島だ。ここに来れば、船乗りとして必要なあらゆる訓練が出来るようになっている。まずは、あの岩に近寄ってくれ」


 ヘンリーさんの指示に従って岩に近寄ったが、それを見て驚いた。


「これ……船ですか?」


 岩だと思ったら、船の形をした岩だった。

 1本のマストに長い船体という、ガレーを模した形だった。

 どう考えても、自然に出来た物ではないのは明らかだった。


「岩属性の魔法使いに作ってもらった物だ。戦闘訓練の時に使用する。とりあえず、こいつを的にしてなんか攻撃してみろ」


 ヘーゲル号には、攻撃手段はある。

 ただ、まだよく確認していないので、マリーの解説がないとどうしようもない。

 とりあえず、攻撃状態にする。


「大砲用意!」


 すると、甲板から左右5カ所ずつ、合わせて10カ所穴が空いた。

 その穴からせり出したのは、大砲だ。しかも前世の近現代的なデザインの大砲だ。キューポラを装備し、砲身が細め。

 ただ、サイズはヘーゲル号に合わせて小さくなっている。


『初めて大砲をお使いになりますので、大砲について説明させていただきます。

 砲台はターンテーブルに載っているため360度あらゆる角度に対応しております。また、上下への斜角も広く対応しております。

 当船の砲弾はデフォルトで3種用意しております。1つは徹甲弾。貫通力を増した弾で、通常弾としても最適です」


「よし。徹甲弾装填、撃て!」


 ポンポンポンポンポン!


 ――うん? どうも大砲とは思えない様な音が聞こえた。

 でも、きちんと弾(椎の実型だった)が超高速で飛び、岩で出来た船に綺麗に穴を空けた。


『当船の火器類は風の魔法を応用し、空気圧で自動装填・発射しております。ですので発射音はものすごく小さく、敵に気づかれにくいという特徴があります。適切な距離であれば、着弾するまで気づかないと思われます』


 うわ、上手くいけば一方的に沈めることすら可能じゃないか。

 ヘンリーさんも説明を聞いて、かなり複雑な表情をしている。


『2つ目は炸裂弾です。弾の内側に魔力を込め、着弾と同時に破裂。弾の破片で敵船員を殺傷し、機材を損壊させます。

 破裂方法は風魔法を使用するタイプと水魔法を使用するタイプの2種類が選べます』


「炸裂弾装填。3つは風魔法、2つは水魔法タイプだ。発射!」


 ポンポンポンポンポンと大砲とは思えない発射音と共に飛翔する砲弾。

 岩船のデッキ部分に落ちると、その瞬間に破裂。風のゴオオオォォォという音と水のバシャアアアァァァという音が混ざる。

 そして着弾点には大きく抉れ、破片による無数の傷跡が残されていた。

 ――これ、爆発時のダメージだけでも十分すぎるのでは?


『最後に銛弾です。これは対大型生物用の弾で、平たく言えば漁用です。銛の後部にロープをくくりつけて撃つことも可能で、撃破後の回収も容易となっております』


「銛弾装填。ロープをくくりつけておけ。撃て!」


 そして気の抜けた音と共に飛ぶ銛。

 その銛は岩の船体に深々と刺さった。ロープが付けられているので、そのまま船同士を固定できるかもしれない。

 ただ、1つ懸念が。


「ヘンリーさん。これで魔物に勝てますかね?」


「アングリア王国周辺で確認されている魔物であれば、攻撃力としては申し分ない。ただ、今撃った銛の速度に対応出来る魔物もいるし、国の近海を出れば以上に硬い魔物も存在する。油断は出来ねぇな」


 やっぱり、安心するには早いようだ。

 とにかく死なないように訓練や情報収集に励むしかなさそうだな。


『以上の3種が当船の基本砲弾となります。この3種に関しては残段数を気にする必要はございません。いくらでもお使いになられます』


 お、これは良い情報だ。

 残弾を気にせず撃ちまくれるのは、かなり大きなアドバンテージだからな。


『ですが、ヘーゲル号を強化していくと『工房』という設備を設置出来るようになります。この工房で新たな砲弾を作ることが可能ですが、作成した砲弾は自動的に登録され、ショップ機能で取り扱いされます。そのため弾数制限があり、足りない分はポイントで購入していただく必要があります』


 未来の事になりそうだが、頭の片隅に置いておいた方がいいな。


「よし、今日の訓練はここまでだ。今日は航海訓練を兼ねた移動と場所見せ、それと船自体の戦闘能力の確認が目的だからな。明日から本格的な実習に入る」


 というわけで、今日は船の新たな秘密と武装についてわかったことが収穫だった。

 あと、初めて自分の手で船を動かせた事に興奮してしまった。

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