第3話 対決

 フォクスクイーンはステージのそばにたどり着くと、ふわりと跳んで舞台に上がった。滑るような歩みで中央に進み、振り返って会場全体を睥睨する。

「光あれ」

 小さく呟くと天井のスポットライトが点灯し彼女を照らした。銀髪がうねうねと蠢き空中に浮かび上がる。尻尾が孔雀の尾のように広がった。彼女の眼は熾(おこ)り火のように赤く輝く。


「妾は妖姫フォクスクイーン、神界戦隊との決着をつけに来た。誰でもよい、神界戦隊を護ろうとするものはかかって参れ」

 会場中に轟いた声にお客たちは皆ステージを見上げた。突然の事態に、佑馬は警備スタッフに助けを求めようとしたが、スタッフは皆、これがイベントの一部かどうか判断できず右往左往するばかりだった。

「誰も来ぬか、それでは、そこにおるガイナレッド、お前から来い」


 佑馬は戸惑った。しかし、周りのお客が期待の眼差しで彼を見つめる中、名指しされて何もしない訳にはいかなかった。ステージに上がって彼女を説得し、ステージから下りてもらおう、そう考えてマスクをかぶりステージに向った。


「ガイナレッド、がんばれ」

 この騒ぎをイベントの一部と考えたらしいファンが声援を送って来る。


 佑馬、ガイナレッドがステージに上がると、フォクスクイーンは右手を胸の前に掲げ手のひらを上に向けた。空気がゆらめき白く光る球体が現れる。

「きゃは」

 彼女が手首をひねると光球は佑馬めがけて一直線に飛んでいった。

「うげっ」

 よける暇はなかった。ぶつかった瞬間、光球は爆発した。閃光と激痛が佑馬を襲う。強烈な衝撃に体を後ろに持っていかれ、たまらず片膝をつく。


「おや、たいしたことないの。他の戦士はどうかな」

 佑馬が左右を見ると、ガイナブルー、ガイナブラックそしてガイナイエローがステージに上がって来ていた。彼らは突然の展開に戸惑い、様子を見に上がって来たのだった。


「これはどう云うことなの?」

 ガイナイエロー、篠崎葛葉が訊ねる。

「俺にもわからん。ガイナファイブから生まれた世界から来たとか云うて、あいつが乱入して来たんじゃ」

「何じゃ、そりゃ。とにかく、あの女をステージから下ろそう」

 ガイナブルー、柴崎玲央とガイナブラック、矢吹颯介が、フォクスクイーンに近づこうとした。だが……


「きゃは」

 二人も同じように光球に吹き飛ばされた。

「お前たちも違う。他にはいないの? 神速戦士のために戦う者は」


 佑馬と葛葉は駆け寄って二人を助け起こした。

「あいつは何者なんじゃ?」

「もしかして『本物』?」

「そんなバカな」

 佑馬たちは口々に言いあう。その時、

「みんな、しっかりして」

 よく通る声が四人の耳を打った。

「おお」

 振り向くと、ガイナピンクがステージに上がって来る姿が見えた。バトルスーツをきっちり着こんでいる。

「ご免なさい。体調が悪いなんて嘘。どうしても譲れない思いがあって、ステージに立つことができなかったの。でも……」

 ガイナピンクは両方のこぶしを胸に当て、強く握りしめた。

「自分の気持ちを見つめて、改めて気付いたの。ガイナファイブがどれだけ大切なものか。だから、痛罵される覚悟を決めてここに来たの。だからこそ」

 顔を上げて、フォクスクイーンを睨みつけた。

「ガイナファイブを貶めるものは許せない。ガイナファイブはどんな強敵に対しても決してひるまない。戦い、そして勝利するのよ。そうでしょ!」


「まあ、そうだな」

 ガイナレッド、浅倉佑馬が呟く。

「俺たちはガイナファイブだ」

 ガイナブルー、柴崎玲央が続ける。

「負けるわけにはいかない」

 ガイナブラック、矢吹颯介は断言した。

「じゃあ、行きましょうか」

 ガイナイエロー、篠崎葛葉が鼓舞して、四人は立ち上がった。


「でも、どうやって?」

 レッドが訊ねる。

「ガイナダイナミックよ。あれが妖姫フォクスクイーンならば、ガイナダイナミックで倒せない訳は無いわ」

「確かに」

「必殺技だしな」

「ガイナファイブの世界に依るものなら、ガイナダイナミックの威力も絶対のはずよ」


「それじゃあ、行くわよ」

 ピンクが声を上げ、

「「「おう」」」

全員が声を合わせて叫んだ。


 ブルーとブラックが横に並んで腕を♯の形に組み合わせてしゃがみ、その前方にピンクとイエローが肩を組んで立つ。

「ガイナダイナミック」

 レッドが助走をつけて走り込み、ブルーとブラックの組み合わせた腕の上に足をかけてジャンプした。二人は腰を上げながら腕を振り上げ、ジャンプを加速させる。レッドはピンクとイエローが組んだ肩を踏み台にしてさらに跳躍した。

「とう!」

 腕を十字に交差させフォクスクイーンに向かって飛び込んで行く。彼女は身をかわそうとはしなかった。空中で一瞬二人の目が合う。彼女の口元がほころんだように見えた。


 激突の瞬間、衝撃と同時に白い閃光がはじけ全てを飲み込む。その時五人は『声』を聞いた。

『創造主様、あなたが神界戦隊への愛を取り戻されたこと嬉しく思います。神界戦隊と妾たちは光と影、光なくして影はなく、影なくして光はありません。そして、光が輝くために影がより暗く深くなければならないのです。妾たちは再び暗く深い影になります。それはあなたのご加護によるものであり、あなたをより輝かせるものです。妾たちが皆あなたを応援していることをどうかお忘れなく』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る