第3話 出来る子の仕事
光を追ってホビットの家の扉を開けた。
「どういうわけか、人の子が・・」
声のする方に目をやる。嫌でも目立つ白髪の少女と少年が飛び込んできた。光の球がその間に浮かんでいる。
「また人の子・・どういうわけか」
(何の集まりだ)
「お腹すいちゃった」
少女の服の袖に隠れて見えない。
「用意してきたものが足りなかった。さっき食べたものしかもうないのだよ」
「やはり侍従を一人連れてくるべきだった」
白髪の少年はそう言ったあと、小さな少女の頬を撫でた。
「あの・・いきなり部外者が言うのも何なんですが、話、整理させてもらえませんか?」
拓磨はこの中で自分が1番の格下などを瞬時に悟っていた。
(おい、光よ。何か言ってくれ、今まで一緒だったろ?)
「つまりは・・この女の子があなたの国で倒れていて、保護した。そして、どうするべきか考えあぐねて、この光のところに相談に来たと言うわけですね。なるほどなるほど」
右手と左手が器用に作業を行う。
「その手さばき。人というものは敬服に値する」
少女は天外と言うらしい。
それによく似た少年はマホロビ。
そしてこの光の正体は名を持たない。ただし、名は無くともここの主には違いない。ここまで他に光の球はいなかったし、根拠のない確信はあった。
「お腹空いちゃった」
光の球の知識を頼りに野草を摘み、代用できるものを取り入れながら、小枝を箸に見立てた。
この家にあるものは最大限利用させてもらう。
鉄素材のプレートをフライパンの代用、庭に(どこまでもが庭)生えてあったニンニク・・みたいな。
何かの実?種?のようなものは潰して油の代わりとした。
動物性のものはないが仕方ない。
要は〝味〟これが〝全て〟だ。
素材はとにかく新鮮で食べられさえすれば良い。
〝塩〟この説明はたとえに困った。
光になど、聞くだけ愚問。無論、幼児に聞くのも論外だ。二人の若者に聞くしかない。天外はまったく無知だったが、もう片方は物知りだった。
おかげで、調味料的なものをこの場所において何とか用意することができた。食の安全は保証できない。まあ、今は非常時であって自己責任でお願いしたい。
「いただきます」
よほど腹を空かせていたのだろう。とびきりの笑顔で無名の料理をあっという間に平らげた。
少女の名は〝はる〟といった。
(はる・・・だけ?名字は!?まあ・・仕方ない。五歳児だもの。あとでゆっくり聞こう)
「タクマは素晴らしい才を持っている」
天外は終始拓磨を褒め殺す。裏はないのだろうが、何故か無性にむずがゆくなる。
咄嗟に天外の背中に手を滑らせた。その瞬間に肩甲骨から上、天外は海老反りながら劇的に変身を遂げた。
一瞬の間だ。
天外は体躯の立派な白いサーベルタイガーとなった。
「おいしかった。お兄ちゃんありがとう」
「どういたしまして」
天外は元の姿に戻っていた。変身は言葉を失うほど驚いたが、ここは異世界。
大概のことは受け入れられる耐性はある。
まして、自分の方が新参者だ。
天外に限らず、マホロビも同じらしく、サーベルタイガーとなるようで、不意に触れられたり、撫でられたりすることで変わりやすいという。
拓磨は、片付けながら、この鉄の板はいただいておこうと決めた。
どうせ捨てられていたんだし、ここでは調理器具が品薄だ。
この鉄があると言うことは、鉄は存在する。
どこかに高炉があるに違いない。
ついでに、このナッツの正体も知る必要がある。エグミもないし、実や豆は総じて栄養価が高い。見た目はピスタチオに近い。
素材集めは当分優先課題だ。
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