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「いや、アルバムってそもそも何なの?そんな聞いたこともないようなものいきなり見せるなんて言われたってどう反応していいかわからないんだけど」
今の言葉でようやく光が元々紛争地域で育ってきた事を思い出した。
確かに学校に通うのならそのための必要最低限のことくらいは育ての親から教えてもらうだろう。しかし、今まで普通に会話できていたから忘れていたが、ここ最近日本に来たばかりの彼女が日本のことをよく知ってることの方がおかしいのだ。
いくら長年日本人の親と一緒にいて日本について教えてもらっていたとはいえ全部教えられるはずがない。今まで授業とかでも知らない言葉が出てきていないことの方がおかしいくらいなのだ。
そう考えるとマアムと呼ばれている戦場カメラマンが教育者としてどれだけ優秀かが分かるな。
「アルバムっていうのは昔の写真とかを思い出としてファイルしてまとめたやつのことをいうんだ」
「写真って戦場を撮るための道具じゃないの?」
何ということだ。彼女の中では写真は戦場を撮るための道具であり、思い出を残すための道具としては考えられないようだった。
僕はスマホを取り出すとカメラ機能をオンにして光のことを撮った。カシャッという音がして少し驚いたような光の様子にクスッと笑ってしまった。
「何をしてる⁉︎」
「ごっ、ごめんって。実際に見したほうがいいかなと思って」
そう言って先ほど撮った写真を彼女に見せた。
そこにはいつもは見せないような間抜けな表情をしている光の姿があった。
「こうやって写真を撮ると後で見たとき昔はこんなこともあったなって思い出を懐かしむことができるだろ」
「確かにそうだけど、いきなり写真を撮るってどういうこと?それもこんな間抜けな表情を撮るなんて殺されたいの?」
光の声のトーンが一つ下がり、冗談では済まされないということを感じた僕は背中の辺りで嫌な汗をかいていた。
「すみませんでした!」
僕はその場で土下座をかますと光は目を細めて呆れたような表情で一度溜め息を吐いた。
「今すぐ消すなら許してやる」
有無を言わせないその迫力に条件反射で僕は削除のボタンを押していた。
「これでよろしいでしょうか」
「うん。それでいい」
僕は許してもらえたことで安心してその場に座り込んだ。
「あぁ、それでアルバムについては分かったから見せて」
そう言われて僕たちが今までやっと何の話をしていたのか思い出すと先ほど引っ張り出してきた僕のアルバムを開いた。
アルバムを見せるのって恥ずかしいと思う人もいるだろうが、僕の場合過去は過去今は今という過去と今の自分は別だと考えているので、昔の自分を見られたところで別人が見られているくらいにしか思えないのだ。
「何この生意気そうな感じのガキは」
「生意気そうで悪かったな。あと女の子なんだから口調がきついのはまだいいとして言葉遣いくらいは直したほうがいいのじゃないか?ガキっていうのは流石にまずいと思うんだが」
「えっ、この前女性配信者でクソガキとかマセガキとか言ってる人いたけど」
「いや、それはどちらも普通の子供に対して使う言葉じゃないよね?クソみたいな子供だからクソガキだし、ませてる子供だからマセガキなんでしょ。見た目が生意気だからって理由で普通の子供にガキなんていうのは違うだろ」
「いや、春陽が普通の子供のわけないじゃん。私に近づいてきた経緯とか考えるとクソ野郎に分類されるんだしクソ野郎の子供の頃でクソガキであってると思うんだけど。クソってつけてないだけまだましな扱いしてるつもりなんだけど」
そう言われればぐうの音も出なかった。
確かに人として最低なことをした僕はくそと言われても仕方がないのだからこれ以上言い返すことはできなかった。
「まあ、ガキはいいけどクソって言葉はあんまり言わないほうがいいよ。その、何というか、糞って意味だし」
「そうなのか?でもそれを彼女の前ではっきりというのはどうなんだ?もう少し隠す努力をしたほうがいいと思うんだが」
確かにそうだな。普通堂々と女性の前でそんな事言ったらダメだわ。
なんだろう。僕の中のモラルは普通の人とはだいぶ違うみたいだ。
「まぁそんなことは置いといて他の写真も見ていこう」
そうやってアルバムを見て会話に花を咲かせているといつのまにか辺りは暗くなっていた。
「そろそろ帰ることにするよ」
「あぁー、もうこんな時間なのか。確かにそろそろ両親が帰って来る時間だしな。家まで送るよ」
「いや、私より貧弱、それも病人に家まで送ってもらってそのまま1人で返すのってどうなの?1人道端で倒れたりしてないか心配なんだけど」
「いや、その通りなんだけど女の子1人でこんな夜中に返すのは」
「いや、この身一つで戦場を生き抜いてきた私を普通の女の子と同列に扱われても」
そんな押し問答を繰り返しながら結局光が1人で帰ることとなった。彼女に送っていくというなら家に着いたあと私も春陽を家まで送ると言われたら送っていく意味がなくなるのでどうしようもなかった。
「また来るね」
「あぁ、いつでも待ってる」
そう言って別れると僕は暗い夜道を歩く光の姿が見えなくなるまで見送った。
彼女が見えなくなり家の中に入って数分が経った頃母が帰ってきた。今日は夕食の材料を買うのを忘れてたとの事で外食することになった。
車で信号を待っていると見覚えのある金髪の少女と黒い服を着た男性が話し込んでいるのが見えた。嫌な予感がして母に頼んで車を降りると黒い服を着た人物が光の手を掴んで無理やり引っ張っていくのが目に入った。僕は感情のまま2人の近くまで走り寄ると2人の間に割って入った。
「僕の彼女に何をしているんだ」
そこには瞳に涙を浮かべた少女とバツが悪そうな表情をしている男がいた。
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