7

「春陽の部屋広いね」


 人の部屋に入るのが初めてだからか興味深げに観察していた光は不意にそんな事を呟いた。


「まぁ、ね。僕は無欲な存在だからね。生きてさえいられればいいんだよ」

「はぁー。そんなんじゃまた死ぬことを許容しそうで心配なんだけど」


 ジト目を向けてくる光に苦笑を返した。


「信用してくれてもいいんじゃないか?僕が大切な彼女を残してこの世を去ってもいいなんて思うはずがないだろ」

「そっ、そう?」


 僕の言葉に顔を赤くしながら黙り込んでしまった光を見ていた僕の胸に彼女に対する愛おしさが込み上げてきた。


 会話を聞いていて分かると思うが僕と光は付き合い始めることになった。あの光の告白を受けて翌日改めて僕の方から告白する事にしたのだ。


「光、僕は君が隣にいてくれたら死にたくないって思える。何があろうが死んでたまるかって思えるんだ。だからずっと僕の隣にいて欲しい。僕と付き合って欲しい」


 僕の告白の言葉に光は驚いた様子だったが、知っての通り彼女も僕に対して好意を抱いていたので正式にお付き合いする事になった。


 当初は彼女をこれ以上悲しませる訳には行かないという同情心から自分が決して死んでは行けないと言う戒めのために付き合い始めたが2週間ほど共にすごしていていつの間にか僕の方も彼女に引かれていた。


 接しやすくなってからは光は学年の人気者となっていたので僕みたいな根暗が付き合う事をよく思っていない人達もいたが僕の病気の話が広まると病人に悪口を言うのは世間体が悪いからか、誰も表立ってそんな事を言ってくることは無くなった。


 この2週間で僕はまず光に言われた通り学校には先生や親友を通したりして病気の事を広げてもらったり、ネットに書き込みを行ったりした。


 学校の教師や親友に話した時は驚かれたがどちらも僕に対して協力的だった。親友に至っては部活も習い事も何もかもやめて僕のために時間を使うと言い出したので申し訳ない気持ちになったが、何をしてでも生き残ると決めていたのでそれを表に出さないようにした。


 ネットの掲示板では悲劇の主人公ぶってるのかとか、苦しんでるのはお前だけじゃないんだよとか心無い言葉をかけられることもあったが多くは同情的で何か情報が入ったらここに書き込んでくれるとの事だった。


 そしてそれら全てが終わった後、光と今後の話をする予定だったので2人で集まったのだが、そこで「ねぇ春陽。来週家に行ってもいい?」と聞かれたのだ。


「いきなりどうしたの?」


 率直な疑問を投げかけると光は少し恥ずかしそうにこちらを見てきた。


「いや、その、ただ好きな人がどんな家で育ったのか気になって」


 そんな光の様子に僕は苦笑を浮かべながらも、愛されてることを再認識しつつ快く快諾した。


 そして、今に至る訳なのだが……


「好きだなぁ」

「ちょっ、いきなりどうしたの!?」


 顔を真っ赤にしながら慌てふためいている光を見ながら少しからかって見たくなってしまった。


「それにしても本当に光って普段とのギャップが凄いよね。普段他人の前ではですます言葉、僕と二人きりの時は荒い言葉使いなのにちょっと褒められたらそうやってアワアワするところも本当に可愛いな」

「そっ、そこは置いといて!」


 うん。やっぱり可愛い。

 光の反応に満足しながらも僕は引き出しからアルバムを取りだした。


 理由は簡単だ。女の子を家に招いたらアルバムを見せる。これは定番だろ?

 それに好きな人がどんな家で育ったのか気になるような人なら好きな人の過去が気になるのは当然の話だ。


 だから僕は光にアルバムを見せるために引っ張り出したのだが……


「えっ?そんなの別に興味無いよ」


 僕の考えは一刀両断されてしまった。

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