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「どう……してここに」

「そんな事よりもどういう事ですか?もうすぐ死ぬとは?」


 僕には答えようがなかった。今彼女に独り言を聞かれてしまった以上嘘は通用しないだろうし、真実を話したら彼女が苦しむのでは無いかと思ったからだ。


 彼女はあれからも僕に話しかけようと何度もしてくれている。少なくとも友達くらいには思ってくれていると見ていいはずだ。


 自分の立場で考えてみると友達があと半年で死ぬなんてし聞いたら正気でいられるだろうか?

 僕はいられる自信が無い。それは辛い過去を経験してきた光ならば尚更では無いだろうか?


「それ……は…」


 僕が言い淀んでいると光が1歩距離を詰め僕の目を覗き込んだ。


「私はもうすぐ死ぬとはどういう事ですかと聞いているんです!それとも何ですか?私には話したくないんですか?生憎ですがもうすぐ死ぬ事を知られているのに真実を話さないことになんの意味もありませんよ!」


 確かにその通りだった。大切なのは僕がもうすぐ死ぬのかどうかであり、事情なんてこの場ではおまけのようなものに過ぎない。


「もしかして私が真実を知って苦しまないようにとか考えてたんですか?あぁ、それなら私を避けていたということも納得できます」


 そこまで言った後に光が『しかし、』と言葉を区切るとキッと鋭い目を僕に向けた。


「私は別にあなたがどうなろうが知ったことではないんですよ」


 その言葉には流石の僕も驚きを隠せなかった。


「あなたは私があなたに話しかけようとしているのを見て好意を抱いているとかそんな勘違いをしていたのかもしれませんが、私はただボッチであるあなたにもっと他人と関わるようにしてもらいたいと思っていただけです。私はあなたのおかげで今学校で普通の生活を送れています。それに感謝しています。だから次は私があなたの友達を作って差し上げようと考えただけ。言わばただの恩返しです。それを好意を持ってるなど勘違いするなんて自意識過剰にも程があるのでは無いですか?」


 ここまで言われればさすがの僕でも怒りが湧いてくる。


「勘違い?確かにそうだったかもしれない。僕は君の言うとおり光という人間が僕が死ぬということを聞いて傷つくのではないかと配慮して遠ざけていた。しかし僕には君が好意を抱いているのかいないのか分かるはずがない。僕としては君が1パーセントでも僕の事が好きである可能性がある以上君を遠ざけるのは当然だろ?それなのに自意識過剰だなんだのって言われる筋合いはないと思うんだが?」

「それならどうして私に話しかけてくれたんですか?」


 そう言われてしまえば僕は何も言い返せなかった。


「あなたが本当に私を傷つけない為に遠ざけているのならばそもそも私に話しかけるべきではなかったのでないですか?私が好意を抱いていた場合私がそうなるかもしれないと分かってやった行為ですよね?それなのに今更傷つけないため?矛盾してるのわかってますか?」


「それは……あの時とは考え方が変わったからだ。あの時の僕は自分が世界で1番不幸だと嘆いていた。だから誰かが苦しむ事になろうとも僕と言う存在を一生心に刻んでいて欲しかった。だから僕は身勝手だと知りながらも君に話しかけた。でも、君の話を聞いてそれは間違いだと気づいた。僕だけが悲劇に見舞われている訳では無いんだ。君だって何度も死にかけているように、世界には僕以上に不幸な人がいるって気づいたんだ。それなのに僕なんかが君をこれ以上誰かを傷つけていいはずがないって思ったんだ」


 僕の説明に光は汚らわしいものでも見るような視線を向けてきた。


「気に入らない」

「えっ」


 今まで聞いたことのないような光の低い声に僕は驚きの声を漏らした。


「その考え方が気に入らないんだよ!」


 先ほどまでの、ですます言葉はどこに行ったのか光の口調が荒々しいものに変わると同時に胸倉を掴まれた。


「自分はもうすぐ死ぬんだから誰かの心に自分の存在を刻み付けたい?周りの人を傷つけないために自分に近づかないでほしい?さっきから聞いてたらふざけたことばかり言って!何生きることを諦めてるんだ!」


 そこには初めて見る光の本気で切れた姿が目に写った。

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